No.05 iPhone
私の友人に久米さんという女性がいて、この人は時々心霊写真を撮る。写真の一部分に死人、あるいは死人の顔や手が、結構はっきりとした形で映り込むというパターンが多い。霊魂のようなよくわからない光の粒が映ったり、犬や猫といった人間以外の霊が映ったりすることもある。
どういう理屈か知らないが、久米さんはiPhoneを使わないと心霊写真を撮ることができない。iPhoneであれば、初代だろうとXであろうと機種は問わない。久米さんがiPhoneのカメラアプリを開き、シャッターボタンを押すと、時々映るはずのないものが映る。恨めしそうな顔をしたおじいさんとか、片腕のない血まみれの小学生とか、そういうものが。
一方、フィルムカメラやデジタルカメラ、あるいはガラケーやAndroidスマホを使って久米さんが何百枚写真を撮ろうと、死人の類が映り込むことはない。少なくとも今まではなかった。iPadのカメラ機能を使った場合も同様だ。彼女が心霊写真を撮るのはiPhoneを使った場合に限られる。
久米さんはiPhoneユーザーである。大昔に一度だけAndroidスマホを使っていた時期もあったが、肌に合わなかったらしく、すぐにiPhoneに戻してしまった。
久米さんはInstagramをやっていて、料理やら旅行の写真をよく投稿している。本人に聞いた話では、心霊が写り込んでしまった写真は投稿しないようにしているらしいが、ときどき誤って「そこにいないはずの髪の長い女が水面に映った冷製スープの写真」だとか「恐ろしい顔をして自らの首を掻き毟る男が上野動物園のパンダの檻の中に立っている写真」だとかを投稿してしまっている。そういう時、私は久米さんに心霊写真を投稿しているよとLineでメッセージを送る。そうすると、すぐに久米さんは私にお礼のメッセージを返信してきて、Instagramから該当画像を消去する。
私はたまに、もう一度Androidスマホを使わないかと久米さんにすすめる。その度に久米さんは考えておくという。しかし、久米さんが新しくスマホを買い換えると、結局またiPhoneが選択される。
私のパソコンには随分前から、心霊写真を撮らないiPhoneを発売してほしいという旨の要望を書いた文書が、下書きの状態で入っている。いつかメールか何かでApple社へ送ろうと思っているのだが、相手にされないだろうという予感がして、何年も下書きのまま放置している。
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