No.02 数字

 すいません、ちょっと相談にのっていただきたくて。……ありがとうございます。

 あなたは夢を見るほうでしょうか。将来的な理想みたいな意味の夢ではなく、夜に見る夢のことです。

 私はどちらかというと、これまであまり夢を見ることはありませんでした。一度眠ってしまってから、翌朝目を覚ますまでの間に、何かを体験するということはほとんどなかったのです。たまに夢を見たとしても、目を覚ます瞬間にすっかりその内容を忘れてしまうのが普通でした。

 そんな私が、一週間ほど前に、とてもリアルな夢を見ました。夢の中の私は、いつもと同じような生活をしていました。スーツを着て、職場である県庁に行き、県の観光振興に関する仕事をする。本当にいつもと変わらない生活をしているのです。

 ただし、私はそこが夢の中だということを知っていました。明晰夢というやつです。私の隣の席でキーボードを叩いている同僚や、あまり好きではない上司が、夢の世界の住人だということを私は知っていました。自分が現在行なっている仕事が、現実世界とは全く関係のない、無駄な仕事だということも知っていました。

 仕事をしているうちに、いつのまにか同僚や上司の姿は職場から消えていました。二十ほどのデスクが並んだ職場に、私はひとりきりでした。しかし、私はそれを不思議に思わず仕事を続けました。夢の中なのだから、人が突然消えるくらいふつうにあることだろうと考えたからです。

 しばらくパソコンとにらめっこしていると、今度は職場の隅の方にひとりの少年が立っていることに気がつきました。黒い髪の毛を少し長く伸ばした十歳くらいの少年でした。少年はしばらく同じ場所でニコニコかわいらしい笑いを浮かべていましたが、やがて私に近づいてきたんです。

 少年の片手にはマジックペンが握られていました。黒のマッキーでした。

 少年はニコニコ笑いながら、私の隣にやってくると、私の首筋に黒のマッキーで何かを書きました。そして、何も言わずに歩いて職場を出ていきました。

 私は窓ガラスに目を向けて、そこに映る自分の姿を見ました。私の首筋にはアラビア数字の「7」が書いてありました。私はそこで夢から覚め、ベッドの上で瞼を開けました。目を覚ました後も、私はその夢の内容を細部までしっかりと覚えていました。

 その翌日も、私は夢を見ました。ほとんど同じ夢でした。県庁に行き、仕事をしていると同僚たちが消え、少年が現れる。少年はまた私に近寄ってきて、黒のマッキーで私の首筋に数字を書きました。今度は「6」でした。

 次の日も、そのまた次の日も私は同じような夢を見続けました。少年が私の首筋に書く数字ばかりが「5」「4」「3」「2」と減っていきました。

 昨日見た夢で、少年が書いた数字は「1」でした。

 はい、つまりそういうことです。

 どうか教えてください。私は今夜、ベッドに入るべきでしょうか?

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