晴明の魂

『ほな説明しよか』


 新年が明け、三貴子神社で三人はそろった。

 リンは仲良さげな二人を見て新年初驚きを味わった。三人一緒にいると、妙にしっくりとする。特に今日からは友達として傍にいるため、京都の時とは違う。得体のしれない一体感のようなものに浸っているようだ。そう感じていると朱雀が出てきた。

 境内の邪魔にならない、社務所の裏で三人と一体は向かい合う。


『まずわいが信晴の式神になったことやけど……まあ偶然なんやが……わいは三人の中で信晴を選んどったで』


「……消去法で?」


「強がりちゃうん」


 要らないといった二人の言葉が刺さって内心涙する。心配そうな顔をしているのは信晴だけ。主に選んで間違いなかったと朱雀は胸をなでおろす。


『お前さんたち【陰陽太極図いんようたいきょくず】は知っとるか?』


 三人はそれぞれ頷く。白黒一対の勾玉をくっつけて丸くしたようなマーク。晴明神社のお守りにもあった。


『その陰と陽を現した図なんやが、これの考えと信晴はほぼ一致するねん』


「……僕が?」


『せや、明るい面も暗い面も半々持っとっていつも葛藤しとるやろ。晴明もそうやった、妖たちと人間の間で葛藤しとった。その魂と信晴は同じ、調和が取れとる』


 調和、と呟く信晴。思い当たることがあるのかもしれない。

 ついで朱雀はリンを指す。


『お前さんは明るい面、【ようの気】が強い』


「悩みがないって言いたいの?」


『ちゃうわ、どんな陰にも光あり、陽にも影ありや。【いんの気】を持っとってもなるべく気にしないように明るくあろうと思っとる』


抽象的な言い方だが当たっていた。

リンは青い目のことで差別されることを気にしてしまうが、仕方がないこととあまり気に病まない様にしている。


『最後にお前さん』


 葵が指される。

 朱雀は少し険しい顔をするもよどみなく言葉を発した。


『もうあんさんでも気づいとると思うが【陰の気】が強い。他人が妬ましい羨ましい思う気持ちが強いやろ』


「そうやな」


『……【晴明の魂】と折り合いがついとるようやな』


「ここに居る時点で吹っ切れてんで」


『せやろな……今言うたんはお前さんらの性格判断でも占星術せんせいじゅつでもない、【晴明の魂】の話や』


晴明の魂、と聞いてもリンは実感がわかない。


『特に晴明自身【陰の気】が強い。せやからそれを受け継いだ葵は陰の力が強うなるのと同時に陰に引っ張られて性格が悪うてゲスくて、十二天将なんていらんゆー天邪鬼なことを口走ったんや』


「唐揚げの原料ってなんからできてるか知らへん?」


 さっと信晴の後ろに隠れる。朱雀はとっくに現代に慣れ、コンビニのから揚げを知っている。式神であるため肉体はないが鳥としての自己防衛本能が働いた。


『ま、まあまあ、今のは【晴明の魂】の話で、お前さんらの性格はそれに少なからず左右されとるゆうことや』


 わいが言うたこと当たっとるやろ? と信晴の横で自信満々に鳥胸を張る。


「それは直しようがないの?」


『わいがゆうたことを覚えとったら大丈夫や。現に葵は【晴明の魂】と折り合いがついとる』


 自身の中の陰の気を認めたからできることや、と今度は言葉を選ぶ。特に陰の気は扱いが難しく下手をしたら精神に支障をきたす。それが十歳そこそこで出来た葵は精神すらも大人びていると言える。


『そう言う意味でゆうたら葵が一番晴明に似とる。晴明も人間嫌っとったからなぁ』


「……あんま嬉しないなぁ」


 憧れの人に似てると言われると嬉しいが、悪い部分が、となると複雑だ。葵は腕を組んで悩んでしまった。


「ねえ朱雀、月代様に葵くんも祭りの準備をすること伝えた方がいいかな」


『あーせやな、わいが取り持ったる』


 鳥だけにな、と千年は古いギャグに自分で笑う。

 誰も笑わず月詠社に向かった。




『……変わったな』


 葵の緊張した面持ちを見てぼそりと呟く。9月の頃と心構えが変わった。一目見ただけで月代は気づいた。その後朱雀の説明もあり月代は自身が感じた悪意に納得した。


『すまなかった』


「気にしてまへん、準備を手伝わしてもらえるだけで嬉しおす」


 ちなみに、と葵は自身のリュックの中からあるものを取り出す。なんだなんだと見ていると、手のひら大のものがいくつも月代の前に並べられる。


『これは……!』


 ウサギ特有の丸い目がさらにまん丸くなった。ぽかんと口を開けて息をするのも忘れている。

 食いついた、と葵はにやりとほくそ笑む。


「東北のお米がお好きやて聞き、どのブランド米がお好きか分からへんかったさかい各種持ってきました」


『コシヒカリ、ササニシキ、はえぬき、つや姫……これは! 最新ブランドの雪若丸ゆきわかまるではないか!』


 各種2kgずつ入ったお米のパッケージを一つずつ読み上げて歓声を上げる。

 月代の好きな物をあらかじめ信晴から聞き、徹底的にお米に関するリサーチをし、粘り気の強いもの、味が濃いもの、硬さ柔らかさ等それぞれ異なる品種を選んで五つセレクションした。

 神使も最新ものを貰うのが嬉しいのか、と心のメモにとっておく。リンや信晴はお米についてあまり知識がなく呆然とやり取りを見ているしかない。


「お好きなブランド米がおましたら申しとくれやす」


『ああ、だがこのことは灯には……』


「分かっとります、内密に……どすなぁ」


 はっはっは、と笑いあう一人と一体。

 昔のテレビで見かけた時代劇の悪代官が山吹色のお菓子を渡しているシーンを誰もが思い浮べた。


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