お迎え
『ふむ、そなたたちの迎えが来たようだな』
「迎え?」
大きなシロは鳥居を向き示し、それからすうっと消えてしまった。月のように静かな明るさを持つキツネがいなくなり、もう夜になったんだな、と実感する。
「……ん? 夜?」
何か忘れているような……うーんと身体ごと傾ける。そしてはっと気づいた。今まであまり考えないようにしていたことを。
「お前たち!!」
聞いたことのある大きな怒鳴り声にびくぅっと体が反応して飛び上がる。おそるおそる、3人が鳥居の方を向く。そこには急いで来たため肩で息をして、目がつり上がった田中先生……と、陸の子分の1人。そっちもぜいぜいと息をしている。
ずんずんと参道の真ん中を通って(!?)私達の目の前で足を止めた。
「今何時だと思っている」
地を這うような声にさっきとは違う意味で恐怖する。時間、もっと気にしておけばよかった……と後悔した。そして心の中で信晴に謝る。
この廃神社は街灯がない。公園の明かりが若干見えるも、そのせいで暗さがより目立つ。もう5時はとっくにすぎているだろう、少し肌寒い。
「ご、ごめんなさい……」
学校に帰ろうと一番言っていた信晴が怯えながら謝る。信晴に続いてリンと陸も頭を下げる。
田中先生はくどくどと説教をするような先生ではなかった。そして説明を求められ、3人でなにがあったか一通り言い終えると、田中先生は深いため息をつく。
「村田」
「はい」
「家は稲荷神社だろう。どうしてノラギツネを神使と間違えるんだ」
「いやー、オレん家のキツネが白いだけかと思って……ました。他の神社に行っても神使に会うことないし、です」
稲荷神社のキツネが白いのは当たり前すぎて教えることでもない。俺の家は寺です、俺の家も、と子分二人は手を挙げて言う。お寺に神使はいない。だから初めて知りました、と。
それなら私も知りませんでした、と挙手するリン。信晴はこんなに知らない人がいたんだと驚き、もっと早く言えばよかったと後悔して俯く。
これがゆとり世代か、とでも言いたげに再度重いため息をついた。
「今日はもう遅い、みんな帰るんだ」
「……先生」
「なんだ」
「陸は式神を使役できたけど、私達はいないです」
リンは両掌を空に向けて収穫がないことをあらわす。今日の授業は式神の使役。だがそれを出来たのは陸しかおらず、他4人は式神を得ることが出来なかった。
「……式神の授業は週1で組まれている。この1年で使役できれば問題ない」
「え、そうなんですか!?」
「説明が足りなかったな、そこは悪かった」
「俺も、初めて知ったんですけど」
若干の汗をかきながら陸の取巻きその2が戻って来た。
彼らは信晴の作戦で先生を呼びに行った。それはどちらか足の速い方が学校まで全速力で走り、もう片方は中間地点で待っている、というもの。もし二人同時に学校まで走ったら、それだけで体力がなくなる。それに神社の場所をちゃんと説明できるかも分からない。だから中間地点で道案内のバトンを交代することで、子供の体力でも先生をなるべく早く連れてくることができた、と言うことだ。
本当は学校に帰って待っていろと先生に言われていたが、気になって神社まで来たとのこと。
「そもそも式神は1日で得られる簡単なものではない。式神とその者の間に信頼関係が結べないと成立しない。村田の場合もそうだ」
「お、オレ?」
話題にあげられた陸とシロはビクッと反応する。大きいシロは消えたが、陸の式神になったシロはそのまま陸の肩に陣取って残った。田中先生の怒鳴り声が怖かったのかまだ少し震えている。
「幼い頃から一緒にいたのだろう、だから今日に繋がった」
褒められたのだと気づくと一転して誇らしそうにする。シロもふふん、と楽しそうに尻尾をゆったりとふった。
「だが無理に使役しようとすると今日のように怪我をする。今度は気を付けるように」
はい、とみんなそろって返事をした。
「では送ろう」
懐から人型の紙を5枚取り出し、息を吹きかける。はらりと紙が手から離れると、紙は大きくなり大人の男女5人になった。
「なんか見たことある」
「入学式の時にいた先生たちだ!」
分かった、と信晴が答えると田中先生は正解だと頷いた。言われてみれば見たことがある。じっと見つめているとひらひらと手を振ってくれる。
「これは紙使という」
「シキシ?」
「紙を使うと書く。紙に命令を与えて自在に動かすことが出来る」
「すごい!」
陸は目をきらきらと輝かせて紙使を見る。自分の紙使を作れるようになれば、それに授業を受けさせてサボることができる、と夢見る。
「ちなみにこれは上級生になってから習う。子供ができるようになるにはかなりの集中力が必要となり1時間もたない」
「なんだぁ」
「ましてや人の形を成しているだけでよく視れば紙と分かる」
ですよねー、と一気に肩を落とす。そううまく先生を騙す
「紙使に送らせる……親御さんへの説明も、な」
意味深に言われた最後の言葉に5人はぴしりと石のように固まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます