目覚め

真っ暗な地面に僅かな光が差す街。


街灯の光だけが暗闇を照らす光となる。


その街で、2人の人間が戦っていた。鋭い斬撃が地面を裂くと、街灯を巻き込み、建物ごと崩れ、爆煙が2つの影を包み込む。


炎が新たな街灯となり、2人を照らす。


煙が晴れ、そこには対峙する少年と刀を構える男の姿があった。




抜刀ぬきうちからす




その言葉とともに、少年双龍 玲音そうりゅう れおんに新たな風が吹く。風が通り過ぎた直後、少年の後ろの建物が炎に包まれる。




「無駄だ。どこに逃げようが今の君程度なら簡単に当てられる。」




その言葉に偽りなどなかった。先程まで、玲音が逃げていた場所は全て爆炎に包まれているのだ。さらには地面もえぐれ、原型など留めていなかった。


それより少年が疑問に思ったのはどうして人が来ないのかだった。


これだけ激しく爆炎が立っているのだ。誰か気づいて警察に言うなりするはずだが、その様子はなく。さらには誰かがいる気配など全くないように感じた。




「どうして!?」


「・・・無駄だと言っている。それに誰も助けに来ない。諦めてここで死ぬのだな」


(くっ・・・!)




あの男の言う通りだった。周りに人がいないんじゃない。恐らくだが、この領域だけ何らかの力が働いているのだ。


だからなのか、本来もっと酷い被害のはずが、


それだけではないだろうが・・・深く考えないようにする。


玲音が今考えるべきなのは、どうやってこの状況を脱することか。なのだ。




「さぁ・・・終わりにしよう」




終わり・・・その言葉とともに、玲音の中の意識が目覚める。


目をつぶって思考を回すことから一転し、玲音の身体の震えは止まり、さらには静かに目を開ける。


その目は、片目だけ紅に染まっていた。




「終わらせない・・・っ!




その直後、玲音に向けて新たな斬撃が容赦なく襲いかかった。











「呆気ない。・・・こんなものか」




斬撃が玲音に当たり、爆風が起こると男は刀をしまい、構えの姿勢から普通に立つように姿勢を変える。


頭を少しかくと、申し訳なさそうに言葉を続ける。




「だがこれも使命だ。許せよ」




少年の死んだであろう方向に一礼すると、その場を速攻で立ち去ろうとする。


刀を腰にしまい、その場を飛び立とうとすると、違和感を感じた。




「身体が重い・・・どうしたというのだ?」




飛び立とうとしたその瞬間。身体が鉛のように重たいのを感じた。男は軽く跳ねるがそれは身体が重いと感じなかった。


男の勘違い、なんてレベルではなかった。この領域に新たな何かが発生したかのように、男の身体に異変が訪れたのだ。


あたりの景色にはなんの変化もなかった。辺りは少年が死んだ時と同じく、爆炎が発生し、あたりの建物などは原型を留めていなかった。




「なんだ・・・何が起こったのだ?」


「分からないか?わかった所でもう遅いがな」




透き通るような高めの声が、あたりの静寂を打ち破る。


男は再び刀を構え直す。もちろん少年が死んだ方向に身体を向け、いつでも〈抜刀ぬけうち〉を放てるようにする。


が、その瞬間。男の身体は吹き飛ばされた。




「ぐっ・・・!」




男の身体は建物ごと吹き飛ばされ、しばらくして壁にたたきつけられるかのような衝撃が襲う。そして男が立っていた所には少年、「双龍 玲音」が立っていた。


ただ、先程の姿とは一変し、彼の頭には、王冠を模したエフェクトが彼の頭をグルグル周り、さらには服がだらしなかった私服から真っ白の純白なドレスに変わっていた。




「・・・目覚めたのか。少年」


「手ぇ抜いて悪かったな。けど今は違う・・・この、俺の〈異能〉女王の決議クィーンズ・ルールの前では全ては無意味と化す」


「・・・面白い!」




男は姿勢を構え直し、玲音は横目にそれを睨む。お互い、戦闘準備は出来たような構えを見せる。


次の瞬間、男が地面を蹴ると同時に、玲音の姿が消える。そして、真ん中で、大きな音が起こると同時に、2人の姿が照らされる。


ぶつかる刀と拳、弾くとお互いの距離は再び離れる。




「厄介だな。その能力」


「光栄だな、女王様」


「俺は男だっ!」




玲音から大地を駆ける。


男は刀で玲音の拳を打ち落とすが、〈抜刀ぬきうち〉には弱点があった。


〈異能〉、〈抜刀ぬきうち〉は一回抜いて再び差し込むのをひとつの行動とするのなら。逆に手数で押せばいいのだ。


玲音はそれを瞬時に理解し、落とされた腕とは別の腕で男を蹴り飛ばした直後にワープ、そのままラッシュを叩き込み、男の身体は再び吹き飛ばされる。




「まだだ。まだ・・・終わっちゃいない」


「・・・ここからが本気だ!行くぞ!」




再び刀と拳が打ち合うその時、2人の姿が元に戻る。


気づけば太陽が登っており、それが戦いを終える合図となったのだ。




「ちっ・・・時間切れか」


「まて・・・!」


「捕まりたくなければ逃げろ。この場からすぐ離れるのだな」




そう言うと男は影のように消えていく。その場には静寂だけが残る。


少年は少し考えたあと、その場をあとにする。


〈異能〉のこと・・・そして今回のこと、そして事件のこと・・・少年の疑問は深まっていくばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る