ハスターク その5
物陰から現れた九人の男たちは、それぞれの手に剣や槍などの得物を持ちながら、じりじりとクロエたちに近づいてきた。
クロエはベルを背にしつつ、剣をだらりと垂らしたまま男たちを見つめていた。
「はあっ!」
その空気に耐えられなくなったのか、男の一人が声を出しながら槍を突き出して突っ込んできた。その様子に、他の男たちも自らの得物を構えてクロエに向かってきた。
しかし、クロエは男たちの様子に眉一つ動かすことなく無言で男たちを迎え撃った。
最初に突っ込んできた男の槍を、横に動いて避けながら男の腕を斬り落とし、反対側から斬りかかってきた剣を飛びあがって避けながら男の顔を蹴り飛ばして反対側へ移動すると、そのままそこにいた二人の首をはねながら着地した。
その様子を見ながら、ベルはのんきに声をかける。
「クロエよ、全員は殺すな。少しでも情報が欲しいからの」
「…………ん、わかった」
「…………!?」
二人の会話に驚いた男たちを見ることなくクロエも軽くそう返すと、今度は自ら男たちの方へと突っ込んでいった。
◇ ◇ ◇
男たちは、二人の少女が組合を出て遺跡の方へ向かっているという見張りからの報告を受け、すぐに行動を開始した。ほどなくして、見張りの言葉通り二人の少女が特に注意することなく遺跡の方へと歩いてきた。
少女たちの手荷物はさして多くなかったが、紫紺の髪の少女は身にまとう服から気品が漂うような美しさを持ち、銀髪の少女は眠そうな顔をしているもののかわいらしい顔をしていたので、奴隷商人に高く売れそうだと男たちは考えていた。
しばらくして、紫紺の髪の少女が遺跡の床や柱などを調べ、銀髪の少女が少し離れたところで眠そうにしていた時、リーダーから襲撃の命令が下された。
しかし、投げられたナイフは銀髪の少女の手によって弾かれ、三人の男が一瞬で斬り殺され、リーダーは顔を蹴り飛ばされてしまった。
だが、男たちの不幸はこれで終わることはなかった。
◇ ◇ ◇
クロエは数メルター離れていた残り五人の男たちのうち、一番近くにいた斧を持つ男のもとへ一歩で到達すると、男が反応するよりも前にその胴を横に斬り裂き、そのままの勢いでその隣にいた男の胴も斬り裂いた。それを見ていた男たちは我先にと逃げようとクロエに背を向けて走り出したが、次の瞬間、前に進むことが出来なくなって地面に横たわった。
「足がっ、俺の足が!」
「ぐぅぅぅ!」
「くそっ、こんなの聞いてねえよっ!」
男たちの足を膝下から斬り落としたクロエは、その男たちを一瞥すると、すぐに踵を返して顔を蹴り飛ばした男のもとへと歩いて行った。
顔を蹴られた男の近くの崩れた壁にはベルが腰かけていて、クロエが近づいてきたのを見ると、声をかけてきた。
「終わったのか?」
「…………ん」
「そうか」
「…………そっちは?」
「ああ、その男からいくつか有益な情報が得られた。まず、この遺跡は儂らが当初目指していた遺跡で合っておった。しかし遺跡といっても数十年前にあった地区が朽ち果てただけのようじゃな」
「…………じゃあ、クロエがみたいものはない、の?」
「そうじゃな。儂が興味を持っておるのはもっと昔の時代じゃしな。しかし、じゃ」
ベルはそこで言葉を切ると、いたずらっぽく口の端を釣り上げてみせた。
「近くの森の奥にそこの盗賊どもがねぐらにしておった洞窟があるのじゃが、そこはどうもかなり古い遺跡のようなんじゃよ」
「…………いきたいの?」
「勿論じゃ!」
「…………言うとおもった。…………はやく、行こ?」
「そう来なくてはな!」
ベルはその言葉を待ってましたとばかりに目を輝かせると、クロエを置いてずんずんと進み始めた。
その様子を見ていたクロエは、足元に落ちていたナイフを三本とも拾うと、ぐるりと辺りを見回して、ナイフを腰にしまった。
「何しておるんじゃ!早く行くぞ!」
クロエは少し離れたところから大きな声で叫んでくるベルに手を上げて合図をすると、彼女の方の向けて走り出す。
ベルとクロエが去ったあと、見張り役をし、ナイフを投げていた男は遺跡に戻り、他の男たちの死体を一か所に集めると呪文を唱え、死体をすべて燃やしてしまった。
その男は感情を映さない瞳で森の方を見ると、ゆっくりと森の方へと歩いて行った。
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