ハスターク

ハスターク その1

「ほう、意外と大きな城壁じゃのう!」

「……………………おっきい」


 二人の目の前には、高さが十数メルターほどの城壁がそびえたっていた。二人はこれ以上に大きな城壁を見たことはあったが、それらは全て飛行できる魔物が近くに生息している都市ばかりで、ほとんど飛行できる魔物が見られない地域でこれほどまでに大きな城壁を作っていることは珍しいことだった。


「これは栄えておる証拠じゃな。この荷物がうまく売れるとよいのじゃが」

「…………おかね、だいじ」

 二人は顔を見合わせて頷くと、城門に向かって歩いて行った。


「すまぬ、ハスタークに入りたいのだが」

「ん?あーー、ガキが二人?めんどくせえ……」

「……ベル、こいつきっていい?」

「やめい。ああ、すまん。冒険者二人、観光で一週間ほど滞在したいんだ」


 そう言いながらベルは懐から冒険者登録証――冒険者であることを公的に示すカード――を取り出すと、番兵に差し出した。


「えーっと、どれどれ……、ほう!嬢ちゃんたちまだまだ新米なのにもう第三位階とは凄いじゃねえか。失礼言って悪かったな」

「うむ、この見た目でそういう反応には慣れているからな」

「はは、じゃあ一週間の滞在だったな。ちょっと待っててくれよ」


 その後、番兵が持ってきた書類に一通り記入し、この都市の法律などをレクチャーされて、クロエとベルはハスタークへの入都を認められた。

 二人は城門をくぐりながら、先程番兵から伝えられた話を思い出していた。


「にしても、儂らはラッキーじゃったな。なにせ『大賢者』様のお姿を見れるのじゃからな!」

「…………ん」


◇ ◇ ◇


「そういえば嬢ちゃんたち、めちゃくちゃ運がいいな」

 二人が番兵から渡された書類の欄を埋めていると、番兵が楽しそうに話しかけてきた。

「運がいい、とはどういうことだ?」

「ああ、明後日から三日間、『大賢者』様が視察にいらっしゃるのさ」

 その言葉に、ベルは「ほう!」と声をあげた。


 『大賢者』とは、勇者アルミナ=クロイツフェルトと共に魔王に挑んだパーティーの一員である長命種エルフに付けられた呼び名であり、そのパーティーの唯一の生き残りである。そのため、冒険者からの支持だけでなく、民衆からの大きな支持を受けてこの国の大臣に選出された。その『大賢者』が定期的に行っている国内の視察で、今回はハスタークが選ばれたということらしい。


◇ ◇ ◇


「しかし、となると宿をとるのは難しいかもしれんのう」

 ベルは隣を歩く相方に向かって話しかけてみた。

「…………」

 しかし、クロエに反応が芳しくない。

「いい宿が取れるといいんじゃが」

 諦めないベル。

「…………」

 反応しないクロエ。

「……クロエ?」

「…………」

「おーい」

「…………」

「…………」

「…………」

「ていっ」

 しびれを切らしたベルは、クロエの頭にチョップしようとして。

「…………」

 あっさりかわされていた。


「クロエ、そろそろ門を抜けるぞ」

「…………う」

 門の出口にて、二人は立ち止った。

「緊張しておるのか?」

「……………………ちょっと」

 それを聞くと、ベルは少し考えるように視線を空にさまよわせ「……そうか」とだけ言った。

 出口は、すぐそこだ。

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