第35話 何やってんだ安藤
普段とは違う場所で買い物がしたいんです。
と、奈々は手を俺の手に添えて柔和に言った。
その言葉に賛同し、奈々の体力を考慮しながら俺は奈々を引き連れて少し遠くの別の場所に買い物に出る。
取り敢えずは.....奈々を喜ばせたいのだ。
俺は思いながら奈々の手を優しく握り返す。
そして互いに笑みを浮かべ合った。
電車に乗り込み俺達は和かに顔を見合わせる。
そんな奈々の顔は.....本当に嬉しそうでまるで天使の様な笑みだった。
全てを変えていく様なそんな感じの。
俺はその顔を見ながら少しだけ口角を上げる。
そして.....窓から外を見る。
過ぎ行く景色を思いを馳せて見ながら俺は今、幸せなんだろうなと考える。
それも有って車窓からの景色は煌びやかに見えた。
海が見えたり森林が見えたりして何も目を汚さない。
良い風景だなと黄昏る。
すると横に居た奈々が俺に声を掛けてきた。
「翔太さん」
「.....どうした?奈々」
「私、本当に.....幸せです。翔太さんと.....周りの方々に支えられて」
「.....今の人生.....も、か?」
己の言葉にハッとした。
何故かは分からないが、つい、そう聞いてしまった。
俺は全くこの場に合ってない誤った言葉だと.....青ざめる。
それはまるで心臓を冷たい手で撫でられた様な.....そんな感じだ。
当の奈々は.....俺を見て目をパチクリした。
だけどそんな奈々は直ぐに柔和な顔になって、はい、と返事する。
奈々の顔は赤かった。
俺は.....そんな奈々に心臓をバクバク鳴らしながら.....曖昧に返事をする。
そうか、と、だ。
仮にも.....幸せなのか.....だったら良かったと思う。
不幸が付き纏う様な俺だから。
思いながら俺は.....奈々の顔を見る。
俺はこの顔を.....ようやっと.....報われるのだろうか、と。
「不幸は付き纏わないですよ。翔太さんは翔太さんですから。私が好きな翔太さんですから」
「.....お前は心でも読めるのか」
「当てるなんて簡単ですよ。その簡単さって言ったら.....簡単に言えばテスト範囲を予測する以上に.....簡単です。今まで翔太さんをずっと見てきたんですから」
「.....お前には敵わないな」
はい、と笑顔を見せる、奈々。
俺は何を恐れているのだろうか。
今は.....楽しめば良いじゃ無いか?
そう思えるんだけど.....怖い。
氷をこの手で握りしめて解ける様に.....無くなるのが.....。
「えっと.....ところで話は変わるんですが.....何だか付けられていません?私達」
「.....!.....奇遇だな。それは俺も思っていた」
何だか視線を感じるのだ。
それはまぁ簡単に言えば.....壁に目が有って常に見られている様な。
壁に耳有り障子に目有りと言う感じで。
かなり身震いするレベルだ。
「.....でもこの電車の車両には私達しか.....」
「.....嫌な予感がする。安藤.....か?」
「.....安藤さんですか?そんな事が?」
「.....いや.....気のせいか?うーん」
心の中で安藤警報が鳴っている。
スマホに入ってくる様な警報音と共に、だ。
何か.....嫌な予感だ。
いや、別に嫌な予感じゃ無いんだけどさ。
何だかその、嫌だ、うん。
俺の代わりに声を出しながら奈々が必死に悩んでいた。
「.....安藤さん.....うーん」
「.....まさかな」
あはは.....と顔を見合わせて苦笑する俺達。
そうしていると電車が目的地の海浜駅に着いたので電車から降りて俺達は周りを気にしながら。
歩く羽目になったが、それはそれで.....手を繋いでバカップルが演出出来ているので.....まぁ良かったのだろうか?
☆
「海!」
「.....そうだな」
海浜駅。
その名の通り、海浜の愛称で通っている。
この駅からは目の前に海が見え、透き通る水が果てしなく続く場所だ。
そして.....白い砂浜。
俺は.....少しだけ懐かしく思ってしまった。
何故なら.....この場所は.....鍵と最初で最後に来た海だから。
俺は少しだけ目を細め、地平線を見据える。
その時だ。
奈々が砂浜にダイブした。
俺は驚愕して近付く。
「翔太さん!カニが!捕まえましょう!」
「.....奈々。砂だらけじゃ無いか」
「.....だって楽しいですから。翔太さんと一緒ですから」
「.....」
八重歯を見せて笑顔を見せる。
俺は.....遥か彼方の日から照らされる顔を見ながら。
本気で.....守りたいと思った。
この顔を、だ。
「.....よし。捕まえるか。カニ」
「はい!」
この様子を.....安藤とかに見られたら、お前はアホか!、と突っ込まれるだろうな。
クスクスと笑いながら俺はカニを捕まえる。
すると、ドサッと奈々の後ろから音がした。
俺達は?を浮かべてその方角を見る。
なんか歩いて来た石段に二人の不良っぽいのがボコボコにされて倒れていた。
俺達は目を見開いて見つめる。
何だコイツ?
「.....何でしょうね?」
「.....分からんけど.....関わらない方が良さそうだ」
その二人の不良は気絶していた。
まるで誰かに棒か何かで殴られた様な感じで、だ。
と言うかコイツ、奈々を狙っていた?
まさかな.....と思いながら。
逃げる様に砂浜を後にした。
☆
「砂だらけになっちゃいましたけど、楽しかったです」
「.....お前がそう言うなら良かったよ」
「えへへ」
1時間後、俺達はショッピング街にやって来た。
砂を叩きながら、ショーウィンドウを見る。
色々な海外のメーカーとか日本のメーカーとかのブランド品が並んでいる。
だけどそんなブランド品には奈々は興味が無さそうだった。
「.....こんな物を買うぐらいなら翔太さんともっと遊びたいです」
「.....お前な.....いちいち言葉が恥ずかしいんだが」
「えへへ。本当ですよ?」
本当に嬉しそうにはにかむ奈々。
その幸せはサンタクロースでも見たかの様な。
俺はその姿を見ながら.....笑みを浮かべて通行人を見る。
恋人達ばっかりだった。
それに嫉妬した様にムッとして奈々が俺の腕に手を回してくる。
そして俺を見上げてきた。
「翔太さん。あんな小童どもに負けない様にしましょう!」
「お、おい?!」
「ふふふ。私だってイチャコラしますよ!やる時はやるんですから!」
ささっ!行きますよ!
と奈々は俺の腕を引っ張る。
俺は盛大に溜息を吐いて、苦笑しながら奈々に引かれる。
背後で何か争っている声がしたが.....俺はそんな事よりと奈々を見る。
奈々は何処かに俺を連れて行く。
そこは.....水着の店だった。
俺は見開く。
「お、おい!?」
「水着選んで下さい。私.....海といえばやっぱりこれかなって思いましたから」
「まだ早くないか?時期は.....5月だぞ」
「関係無いですよ。時期なんて。入院が多い私にとっては.....です」
奈々は少しだけしんみりする。
俺はそれを励まそうとした。
だが、奈々は直ぐに顔を上げて興奮気味に水着店に入った。
俺は驚愕しながら.....付いて行く。
店内は洋風な感じの店だった。
ビキニばかりで俺は少しだけ赤面する中、奈々はハキハキと説明した。
店員さんが何かを持ってくる。
「翔太さん。取り敢えず着替えてきますね」
「.....あ、ああ」
「では」
マジに.....水着を選ばせる気の様だ。
一着では無く、何着も持って行ったから。
俺は盛大に溜息を吐いて.....外を見遣る。
安藤が窓に貼っついて居た。
「.....」
「.....」
赤面している。
よく見ると.....何故か流星の姿も有る。
二人.....ってかよく見ると白夜の姿も有る。
全員、サングラス姿で目を細めている。
うむ、何も見なかった。
俺は再び、うむ、と納得して外から視線を外す。
あの馬鹿、水着だから張り付いているとかじゃ無いよな。
「翔太さん。お待たせしました。.....あれ?どうしたんですか?」
「.....いや、疲れただけだ。うん。色々と」
再び窓を見るが既に誰も居なかった。
何だアイツら.....。
思いながら頭に手を添える。
まるで.....ゾンビみたいにくっ付いて居他のに。
一瞬だな、マジに。
「.....あ、そうです。このビキニどうですか?」
「.....お.....おう」
色白の肌。
そして.....胸元が強調された.....レオパードだ。
俺は少しだけ赤面した。
鼻血が出る。
「翔太さん!?大丈夫ですか!?」
「.....俺にはかなり.....その、パンチが強いな。でも.....可愛い」
「.....あ、有難う御座います。可愛いですか?えへへ」
「.....でも本当に可愛いよ」
俺はその様に笑みを溢しながら返答する。
でもお前.....集中出来なくなった。
まともなデートと思いきやアイツらのせいで.....。
俺が見たのは.....脳内のバグだったのだろうか。
でも違うよな、絶対に。
考えながら居ると、奈々が水着を持って来た。
「あ、この水着にも着替えますね」
「下がズボン風か。良いんじゃ無いか」
「はい。じゃあ行って来ます」
そして奈々は試着室に入った。
俺はそれを見送る。
そうしていると頭を叩かれた。
俺はビックリしながら背後を見る。
安藤が仁王立ちしていた。
「お前.....」
「お前、じゃねー!!!!!何が水着かコラ!アホか!鼻血が出るわ!」
「ハイハイ、どうどう。店員が唖然としているだろ。お前。何でついて来た。つうか、もしかして不良をやったのもお前か?」
「そうだ。全くよ。世話がかかるぜ」
感謝しろよ?.....じゃあまた後でな相棒!
と言って安藤は去って行く。
奈々にバレない様にする為かも知れんが。
既にバレているのでは?
と思いながらも止めずに俺は頭に手を添えた。
シャッと音がしてカーテンが開く。
目をパチクリした、奈々が俺を見ていた。
どうしたのですか?的な感じで。
「.....翔太さん?さっきよりも.....お疲れですか?」
「いや、うん。まぁちょっと悪夢を見たからな」
「.....え!?」
取り敢えずは.....うん、と思いながら。
俺は目を閉じて開けて苦笑した。
それから.....安藤、流星、白夜が付いてくる中。
水着を選んでからデートは続いた。
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