第32話 翔太の過去 〜仲直りの時〜、後

例えばコップに水と油を同時に入れても交わる事は決して無い様に。

界面活性剤という何かを入れて油の膜を取り除かないと交わらない様に。

俺が水なら流星は油だ。

そんな.....相反する二つだった。


界面活性剤の様な物は見つからず.....俺達の時間はただただ過ぎ。

とある日の事。

その事が有ってから俺と流星は仲が良くなった。

それは.....至極単純な事だったけど。


俺にとっては.....鍵がくれた宝物だったのかも知れないと。

そう、思ってしまう様な。

そんな出来事だった。



俺と流星が口を聞かなくなってから半年近く経過していたと思う。

その間、俺と流星は決して交わらなかった。

俺は流星の存在がただ、邪魔でしか無かったのだが。

それぐらい、互いに怒っていた。


「.....翔太さん」


「.....」


朝も昼も夜もスルーしてばかりで。

聡子さんと父さんも困惑するぐらいに.....無口だった。

そんなある日の事。


「.....?」


自宅に中学校から帰って来てから流星を見て衝撃を受けた。

何をしていたかと言えば、流星は鍵の遺影の有る仏壇の周りを掃除していた。

流星には全く関係が無い、鍵の、だ。


俺は.....その事に衝撃を受けてしまった。

だから何時も綺麗だったのか、と。

それから流星は手を合わせて、鍵の事を祈っていたのだ。


俺は.....その姿を見て鍵を思い出した。

そして、その言葉を.....思い出す。


『翔太。仲良くね』


お前ならそう言うよな。

と俺は思いながら.....流星の場所に行った。

驚く流星。

俺は.....真剣な顔をしながら流星を見る。


ああ、そう言えばこの時、俺も流星に話したっけか。

過去を、奈々の様に、だ。

そしたら流星は俺に涙を浮かべてくれて。

親密になったんだった。


「.....お兄ちゃん.....」


「.....お、お兄ちゃん!?」


「.....私の兄貴でしょ。貴方は。だったらお兄ちゃんで」


「.....それは.....」


鍵が.....引き合わせたのかも知れない。

今でも俺は.....その様に思う。

そして仲が良くなって、安藤とか色々な奴らに出会い。

今に至る訳だが。



「.....翔太さんはやっぱり良い人ですね」


「.....そんな事は無いよ。俺は.....偶然だ」


「偶然じゃ無いです。私の目に狂いは無かったですね」


停電の中、その様に話した後。

俺達は笑みを浮かべていた。

こんな事を話す気になったのは.....二人目だが。

流星の次の、奈々だ。


それ以外の奴ら、つまり安藤にも。

曖昧にしか説明してない。

だから珍しいのだ。


「.....翔太さん。でもその.....りゅーちゃんってもしかして.....翔太さんの事を.....譲れ無いんじゃ無いですか?」


「.....!」


奈々のまさかの問いに言葉に詰まった。

どう言えば良いのだろうか。

俺は.....困惑しながら、考える。

それから.....奈々を見据えた。


「.....奈々。良いか.....」


「.....」


「お前が.....包み隠すなって言ったから.....話す。だけどな奈々」


「.....はい」


流星は.....願ったんだ俺達の.....幸せを。

と俺は真剣に言う。

だが、奈々は複雑そうな顔をした。

そして顎に手を添える。


「.....りゅーちゃん.....うん。そうだ.....やっぱり大切だよね」


「.....?」


「翔太さん」


「.....どうした?」


りゅーちゃんの.....本当の気持ちを今なら知れそうです。

と、真剣な顔付きでその様に話す奈々。

そして.....スマホを奈々は取り出した。

どうする気だ?


「.....私、りゅーちゃんも大切です。でも翔太さんも好き。だから.....私はりゅーちゃんの素直な気持ちが分かった今、りゅーちゃんのその気持ちも尊重したいです。だから.....翔太さん。私、りゅーちゃんと話し合います」


なので、とニコッと言う奈々。

どうする気だ?と思っているとグイグイっと追い出された。

それから奈々は柔和に俺に言う。


「すいません、今だけ外に出て下さい」


「.....で、でも。お前らだけで解決.....」


「大丈夫、出来ますよ。私とりゅーちゃんは大切な親友同士なんですから」


「.....お、おう」


俺は苦笑いを浮かべる。

そして廊下に出されてしまった。

何も見えない暗闇の中、俺は.....頭を掻きつつ。

どうしようも無いので返事を待つ事にした。


そして30分経った頃。

取り敢えずという感じで停電が解消して、俺は天井を見上げていると扉が開いた。

表情はそこまで深刻じゃ無い、奈々がヒョコッと顔を見せる。


「じゃあ、翔太さん。入って下さい」


「へ?お、おう」


「結論会議が終わりました。えっとですね」


部屋の中で一回転して、八重歯を見せる、奈々。

俺は?を浮かべながら奈々を見つめる。

奈々は笑みを浮かべて話してきた。


「りゅーちゃんは翔太さんの事.....やっぱり忘れて無いです。泣いてました。大切な、大切な気持ちの確認が出来ました。なので.....翔太さん。私の考えを聞いて下さい」


「.....!.....ああ.....」


俺はスゥッと息を吸い込んで息を整える。

奈々は真剣な眼差しで俺に向いてくる。

そして.....俺を見据えた。

俺は奈々を真っ直ぐに見つめる。


「本当に考えました。それも本当に本当に本当にです。でも.....私は.....りゅーちゃんにも幸せになって欲しいです。でも.....日本では花嫁は一人だけ。.....私とりゅーちゃん。二人のうち.....どちらかは必ず諦める日が来る」


少しだけ黄昏る様に話す、奈々。

以前も聞いた言葉をまた聞く事になるとは思わなかった。

また深刻な事になるのだろうか.....と思ったが。


だけど、今回は違う様だ。

何か計画が有る様で俺を真っ直ぐに和かに見てくる。

俺は直球で聞く。


「.....流星をとって欲しいという事か?」


「違います。私と.....りゅーちゃん。翔太さんの恋人にどちらが相応しいか。これから私は.....りゅーちゃんと話し合って.....深く話し合って決めたいんです」


「.....は?」


じゃあどういう事なのか。

目が点になる俺。

そして奈々は真剣な顔で.....一歩踏み出して見つめてくる。

俺を見上げた。


「.....勝手でごめんなさい。翔太さん。でも私.....りゅーちゃんも大切ですから。さっきも言ったかもですが、りゅーちゃんの意思も尊重したいですから」


「.....!」


そして手を後ろに回して八重歯を見せながらニコッと微笑む、奈々。

俺は口元に手を添えて赤面しながら.....横を向く。

これにより、本日から.....奈々と、流星の。

二人の女の子による.....俺の誘惑が幕を開けた。

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