第31話 翔太の過去 〜散った灯火〜

命は本当に花の様に儚い。

有名な何処かの誰かが言っていた気がする。

その言葉を.....当時の俺が知っていたかと言われたら知らないと思う。


でも.....感情では儚いまま終わらせたら駄目だ、という感じだった。

知らなくても.....そんな感じで居れたのだ。

踏ん張っていた気がする。


だけど、この世の中に神は絶対に居ない。

何故なら、鍵の調子はどんどん狂っていったのだ。

そして.....当時の俺に泣きながら母さんが言ってきたの.....を覚えている。

夜遅くに病院から帰って来た深刻そうな顔付きの父さんと母さんの顔も、だ。


『鍵ちゃん.....余命.....あと1ヶ月だって.....』


鼻水まで出しながら涙が止まらない母さんを見ながら。

俺は.....意味が分からずぽけっとしていた。

だけど.....命が尽き掛けている。

それだけは鍵を見ていて分かった。


鍵に滅多に会えなくなったからだ。

俺は.....何か悪い方向に行っている。

そんな感じがして.....俺は拙い手で千羽鶴を折ったりもした。

鍵は多分、これから先も.....退院する事は無いだろう。


その様にも俺の両親を見ていて察せた。

鍵と出会って.....三年。

こんな事になるなんて思ってもいなかった。

もう直ぐ、別れがくる。


俺はヒーローにならないといけないと。

学校で困っている人を助けたり、クラス委員になったりして抵抗しまくった。

だが結局全ては儚く。

ヒーローになれずに約束も守れず.....鍵は。


3ヶ月後、この世を去った。


その間、俺は必死に会おうとしたが.....鍵の容体が悪くて全然会えずに.....俺は。

泣くしか出来なかった。

その間に色々してくれたのは今でも感謝だが。

悲し過ぎた。



坊主の木魚がポクポクと鳴いていてそして.....黒服の人達と。

俺も黒服を着て。

赤白の.....垂れ幕が有って涙を流す人達が居て。

俺は.....鍵の安らかな寝顔を見て。


「.....」


「ほら.....鍵ちゃん、安らかだよね.....」


「.....」


あの線香の匂い。

お婆ちゃんが死んだ時と同じだったから。

俺は.....鍵が居なくなったという事を。

強制的に自覚するしか無かった。


それから俺は鍵が居なくなったから。

ヒーローを捨てた。

自我を捨て、打ちひしがれた。

うつ病になったのだ。


幼い体に.....あまりのストレスに。

俺は.....下痢も止まらず。

崩壊していった。



不調で学校に行けないまま支援学校などに通い、入学にも行けず。

五年経った、小学四年生の時だ。

俺の調子を分かってかどうか知らないけど。

母さんと父さんは喧嘩ばかりし始めた。

仕事の関係で上手くいかない事などだったと思う。


俺は.....とにかく仲直りしてほしいと。

心から願っていたが結局離婚してしまい。

俺は更に精神不安になった。


そんな中.....俺に手を指し伸ばした存在が居た。

彼女は.....河瀬錦。

つまり後の河瀬、彼女だ。

俺は河瀬に頼る事で.....学校に行けたりした。


だけど.....もう知っての事。

俺は河瀬の不器用さで転校せざるを得なくなったりもした。

何が起こったか。

俺が.....彼女を俺の鬱に巻き添えにしそうになり。


そのままその噂が勝手に広まっていったのだ。

これは河瀬がやった事では無いが、河瀬がしたものと。

俺は疑い、とにかく居場所が無くなって転校した。


そして.....転校した先の小学校で卒業して.....俺は流星と名の有る女の子に出会った。

離婚した後の再婚相手の連れ子。

当時、俺と流星は仲が良く無かった。



「.....」


「あの.....すいません」


「.....何だ」


「そんなに気を落としているとこっちも暗くなるので、勘弁してほしいですが」


ある日、俺は流星と初めて二人きりになって留守番で。

俺は.....まだうつ病で.....俯いていた。

その時に言われた、その一言。

俺はキレた。


「ここは俺の家だ!何をしようが勝手だろ!」


「でも.....私のお母さんは.....再婚したし.....」


「所詮は.....赤の他人だ.....お前なんて!」


俺はその様に吐き捨てて。

見つめると、流星は涙をボロボロ零して。

俺はどうしたら良いか分からなくなってしまったのを覚えている。

そして......流星は走って家から出て行って。


「.....勝手にしろ」


と俺は一人、吐き捨ててソファに腰掛けた。

そして.....何時間しても戻って来ずに。

捜索願を出そうという事になって.....俺は流石に焦った覚えが有る。



流星が居たのは二キロほど離れた工場跡地。

その場所に居たのを夜中、捜索していた俺が見つけた。

親父、地元の消防団、聡子さん、親戚と探す中で。


俺は.....懐中電灯を置きながら、何をやってんだ!と叫んだ。

姿にビクッとした、流星。

懐中電灯を見つめる。


「.....」


「.....お前な。良い加減にしろよ。人にどれだけ迷惑.....」


「でも貴方は赤の他人ですよね」


はぁ!?と俺は言う。

その言葉でキッと俺を睨み。

そして.....流星は何処かに行こうとした。

その手を掴んで、俺は言う。


「戻るぞ!心配して.....」


だが、流星は一歩も動かなかった。

そして手を振り解く。

俺は、は、はぁ!?と思いながら見つめる。

流星は呟く様に言った。


「.....私は翔太さんに.....接触する為に.....頑張っていたのに.....その言い方は無いでしょう.....!?」


「.....!」


雨が降り出してきたのを覚えている。

そして.....地元の消防団の方々が俺達を保護して。

俺と流星の仲は険悪、極まりない感じだった。

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