第30話 翔太の過去 〜失われ行く未来〜
鍵と俺はとにかく一心同体だった。
つまり、片方無くして成り立たない。
そんな感じの存在だったと思う。
そんなある日の夜。
何時だったかな、リビングで遊んでいると。
バタバタと母さんと父さんが準備を始めた。
俺は機関車のおもちゃを持ちながら?を浮かべて眺めていると。
急いで俺を抱えて、夜、車に急いで乗り込み、そして走り出した。
外の景色を今でも忘れない。
☆
「すいません.....その、鍵さんの容体は.....!」
「あ、今、関係者様以外の方は面会禁止です。すいません.....」
そんな会話を覚えている。
大人達が慌てて、本当に慌てて。
俺は多分、何か起こっている。
その様にしか言葉を読み取る力が薄かったので察する事が出来なかったが。
それでも鍵ちゃんに何か起こっている。
そう、思いながら青ざめたのを覚えている。
鍵、鍵と言っていて、しかも夜に外出。
察するのは当たり前の事だろう。
もし、この時に。
俺が今の体なら何かが変わったかも知れない。
今でもそれは思う。
だからどうだって思うんだけど。
「翔ちゃん。鍵ちゃんがちょっともしかしたら危ないから.....後で会おうね」
ただ俺にそう言いながらの涙目の母親。
俺は.....何が起こっているのだろうと不安になってハラハラしたの覚えている。
そして.....それから.....何時間か経った後だ。
俺は鍵に.....面会した。
その鍵の姿を.....今でも忘れない。
呼吸器を付けて、息をしている鍵。
不安になって縋る俺。
明らかに何かが違っていたのを感じた。
その時はただ.....目の前を指を咥えて見つめていたと思う。
だってそうするしか.....出来なかったから。
そうして不安を取り除くしか.....昔の俺には出来なかったんだ。
そんな幼い俺を抱き抱えながら父さんが眉を顰めていた。
鍵の両親は泣いていたと思う。
「あの.....鍵ちゃんの容体は.....!」
「.....ああ.....そうですね.....そのあまり言いたく無いですが.....!」
「そんな.....」
母親も父親も。
とにかく優しかった。
だから気に掛けていたから直ぐに来たのだろう。
俺は.....その事を今も覚えている。
親父は鍵を見ながら、泣いていた。
どうしてこの子が、と我が子の様に、だ。
俺は嬉しかった。
親父がそう、気に掛けてくれる事に。
その様に思っていた時だ。
鍵が目を開けた。
そしてお父さん、お母さんと言って.....涙を零した。
俺は.....とても嬉しくて呼び掛けたかったけど。
それ以前に足が竦み。
動けなかったのを覚えている。
だけど、その中で心配していたのだろう鍵が俺を見てきて。
そして笑顔を見せた。
それから、この様に言ったのだ。
「.....翔太。私は死なないから」
「.....鍵ちゃん.....!」
心の中でずっと思っていてくれたのだろう。
鍵が俺の事を、だ。
そう思うと.....本当に嬉しさしか無くて。
でも怖くて。
「.....鍵ちゃん.....死なないで.....」
大粒の涙を親の前なのに流して。
そして下を見ながら泣きじゃくって。
でも鍵は強かった。
「もー。翔太.....私、貴方を男にするまで死ねないね」
「鍵ちゃんが心配なんだ.....僕.....」
「大丈夫。貴方を残して.....死ねるものですか」
何でそんなに君は強いの、と言いたかった。
だけど、その前に看護師やら医者が入って来て。
俺達は表で待つ事になった。
☆
1週間経って、体調が悪かった鍵は徐々に根気で回復して。
そして元気になった。
でも、病院からの退院許可は下りず。
俺は病院へ行くのが趣味なるぐらいに病院へ向かった。
目の前の鍵は空を見上げてそして呟く。
「翔太。私ね、あの空の鳥さんになりたいの」
「.....小鳥さん?」
「.....そう。鳥。あの大きな白い羽で.....空を飛び回りたいわ。自由だからね。.....でも人間ってそれは無理だから.....その代わりに何処か、遠くに行きたいなって。自然な北海道とか」
「.....雪とかなの?」
そうね。
私、雪が.....沢山の雪が見たいわ。
ニコッと笑顔を見せて俺は赤面した。
そして.....必死に手を握ったのを覚えている。
「.....じゃあ、もし治ったら.....ほっかいどうに行こうね!絶対だよ!」
「.....そうね」
苦笑する、鍵の顔。
でも察していたのかも知れない。
頭が良い鍵は大人達から。
俺以上に頭が良かった鍵だから。
もう、自らはそんな遠くまで行けるほど余裕も無く。
そして命は長くは無いって事を、だ。
俺は鍵が吐血した事を.....その日、知った。
吐血の意味が分からなかったが大変な事だという事だけ。
分かった気がした。
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