第27話 ゴールテープの先に

奈々と流星が転校しようかと話し合っている中。

俺は.....ランカーとしての出番が来た。

取り敢えずは頑張るかと思いながら観覧席を見ていると。

長嶋が扇子を広げて何かしていた。


「花鳥風月!.....って事で翔太、頑張って!」


「バカなのかアイツは.....」


俺は頭に手を添えた。

それは応援じゃ無くてただの宴会芸だろ。

周りが唖然としている中、俺は頭に手を添えて赤面しつつ門に集まりながらハチマキを頭に巻く。


『それでは、二年生などによるリレー!選手入場です!』


「よし.....」


俺はその様に思いながらも長嶋に感謝した。

何故なら、意味不明な行動で緊張が解けたのだ。

助かったよ、ある意味と俺は苦笑する。

そして.....笑みを浮かべ、真剣な顔をする。



俺は4番目、つまりランカーの最後だ。

と言う事で.....旗を持っている奴らを真正面に見ながら。

リレーを見つめる。

そして出番が来て俺は.....観覧席が必ず目に入る場所に立った。


「.....!」


「.....」


奈々が笑んでいた。

俺は.....少しだけ笑みを浮かべて。

そして.....空を見た。

それから.....鍵を思いながら。


「.....よし!ばっちこい!」


『おおっと!佐藤選手!早い!』


そしてランカーとしての出番が回ってくる。

佐藤、陸上の奴が俺にバトンを渡す。

それから走る。


「!」


バトンを落としてしまった。

そしてそれに気が付いてずっこける。

俺は足に痛みを感じながら起き上がった。

クソッタレ、出血か.....。


「.....だけど.....」


俺の様子にザワザワする観覧席の声を聞きつつ。

諦める訳にはいかないと。

そう、思いながら俺は顔を上げて。

そして.....走り出した。


「.....鍵.....」


何故か、その言葉が出た。

俺は.....神を鍵に例えているのだろうか?と思える様に。

そして見開いて駆け出す。


「ハァハァ!!!!!」


『おっと!谷川選手!早い!怪我をしているにも関わらず.....!』


ゴールテープが.....何だか俺にとっては人生の転換点の様に見えた。

そう、思いながら.....あれを俺が.....切りたい!

考えつつ、もう周りの声も聞けない感じで突っ走った。


それから.....一着でゴールした。



「いてっ!」


「我慢して。翔太。痛いかもだけど」


「頑張ったよなお前。一着とか」


河瀬が救急テントの下で救急箱を開いて治療する中。

俺は椅子で痛みに顔を歪めた。

安藤が絶賛しているが.....なんの為に居るんだコイツ。

俺は溜息を吐きながら向いた。


「.....有難うな、安藤、そして河瀬」


「良いって事よ」


「お前、何もして無いじゃねーか」


俺は応援人だから。

とニコッとした、安藤。

ったく.....と思いながら河瀬を見る。

河瀬もニコッとしていた。


「でも格好良かった。流石は翔太だね」


「.....まあ転けたけどな」


「でもそれも格好良い。惚れ直したんじゃ無い?奈々.....私も」


「おう。.....え!?」


見開いて河瀬を見る。

そんな河瀬は俺に冗談だよ、と言う。

いやいや、ジョークに聞こえないんだが。

俺は汗を流しつつ思った。


「.....モテモテだな。谷川!」


消毒液を救急箱から取って傷に打ちまける、安藤。

俺は、いてぇ!!!!!と叫んだ。

この馬鹿、マジで殺す!

と思いながら安藤をひっ捕まえようとしたが逃げた。


「ったく」


「お兄さん」


「.....?」


言われて背後を見ると奈々が居た。

流星と共に、だ。

俺と河瀬は顔を見合わせる。


「.....此処には来れないんじゃ無いのか?お前」


「うん。でも頼んで来た。お兄さん。その.....格好良かったです」


「.....ああ、サンクス」


本当に格好良かったよね?りゅーちゃん、と奈々は言う。

流星はそうだね、と言った。

そして俺に笑む。

俺は少しだけ恥ずかしがりながら頬を掻いた。


「でもその.....傷、大丈夫ですか?」


「.....ああ、死ぬ訳じゃ無いからよ」


「そうですか.....翔太さん.....あ」


翔太さん?

俺と河瀬は驚きながら見る。

奈々は恥ずかしがりながら流星に隠れた。

流星は苦笑しながら俺に向いてくる。


「もう名前を呼んでも良いんじゃ無いかって思って。ななちゃんに言ったの。お兄ちゃんをその、名前で呼んだら?って。だって恋人同士でしょ?」


「.....そういう事か。じゃあ俺も呼ばせてもらうよ。奈々。改めて」


「はい.....翔太さん.....」


赤くなりながらも八重歯を見せて笑顔を見せた、奈々。

俺も少しだけ赤くなる.....って。

遠くから猛烈な黒いオーラが.....。


「.....お前ら.....俺を忘れてないか?」


「いや忘れてねーけどよ」


ジト目の安藤だった。

お前.....彼女居るだろうが。

イチャイチャし過ぎという目をしている。

全くな、と思っていると白夜がやって来た。


「智彦。何やっているの?」


「いや、谷川がイチャイチャしているから環境を破壊しようと思った」


「何を言うか殺すぞお前」


俺は眉を顰めてキルユー的な目を向ける。

安藤はそれに苦笑した。

そして.....俺の肩に手を回す。

俺は安藤を見る。


「頑張ったな。谷川」


「お前は俺の母親か」


「クックック。谷川が終わったから次は俺の出番だ.....な」


サー.....と音が鳴る様に思いっきり青ざめる、安藤。

励まししてもらっているのが励ます様になっているぞ。

俺は苦笑いを浮かべながら安藤を見る。


「お前なら大丈夫だ。安藤」


「.....そうかなぁ」


「うん。智彦なら」


騎馬戦の騎手なんて適当にやってれば良いんだよ。

乗っかってるだけでも良いしな。

と、言いながら居たが。

クラスメイト達がやって来て一変する。


「安藤!お前に期待しているぞ!」


「そうそう!白組、あともうちょいで赤追い抜くしな!」


「安藤に期待だ!安藤神に!」


確かに白は騎馬戦で頑張って優勝すれば赤を追い抜いて逆転だ。

なので安藤がこれに泡吹いて気絶したのは言うまでも無い。

俺は、アハハ、と苦笑するしか無かった。

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