第22話 奈々の亡くなった犬
体育祭の練習もそこそこに。
ゴールデンウィーク2日目になった。
俺と流星は、と言うと。
流星と奈々と共に.....遊びに来ていた。
何処かと言われたらあのショッピングモールだ。
長嶋と出会った場所だ。
「デカイね」
「だろ。俺も見てからびっくりしたわ」
「お兄さんは良かったんですか?二回も同じ場所に来るの」
「問題は無いよ」
そうですかと答える、奈々。
彼女は可愛らしい花の付いた帽子を被っている。
何故被っているのかと言われたら抗がん剤の副作用を隠す為だ。
頭に十円ハゲが有ると奈々が俺達に告げてきたのだ。
抗がん剤に強いと言っていた彼女だが。
頭が禿げちゃいましたと笑っていたがかなりショックだろうと俺は思う。
だから今日こそは.....彼女を楽しませようと流星と話した。
家族で何処かに出かけようとしていたのだが急遽予定を変更したのだ。
「.....奈々。何処に行きたい?」
「私ですか?あ、じゃあ私は.....ペットショップに行ってみたいです」
「それ良いね。ななちゃん」
正直言って.....俺も流星も奈々の状態に関してはショックだった。
抗がん剤を使わないといけない彼女の体。
どれだけ蝕まれているのか、とその様に思って、だ。
ガンは.....一体、何処まで進行しているのだろうか。
聞くに聞けない.....。
「お兄さん。そんなに寂しい顔をしないで下さい」
「.....奈々?」
「.....私は死にませんよ。頭禿げましたけど何分、頑丈ですから」
ニコッと八重歯を見せながら笑む彼女に。
涙が出そうになるが堪える。
流星は涙目だった。
「.....じゃ、じゃあ行こう」
「そうだね。りゅーちゃん」
「.....奈々」
「はい?」
こんな事を言うのは申し訳無いけど。
俺の体育祭の応援は頼むから絶対に来てくれ。
と俺は強くお願いした。
奈々はビックリしながらも柔和に、はい、と返事をして俺に笑んだ。
☆
「わー!モフモフ!」
「そうだな」
「トイプードルだね」
俺達はガラスケースの中を見つめる。
目の前のガラスケースの中には様々な子犬が居た。
俺は名前を見つめる。
トイプードル、しば犬など、と書いて有る。
「お兄さん、子犬、可愛いですね」
「.....そうだな。とても可愛い。子犬は癒される」
だが俺は.....そんな感じの事を言いながらも複雑な思いが拭えなくていた。
奈々のガンの事に関して俺達は.....この先もついていけるだろうか。
そして奈々をこの先、支えていけるだろうか。
不安で仕方が無いんだと思う。
その様に思っていると流星が声を掛けてきた。
「お兄ちゃん。大丈夫?」
「.....正直言ってまだかなり冷や汗が出る。だけど大丈夫だ。男は.....まあ強くあれだからな」
「凄いね。.....でも.....無理はしないでね」
「.....大丈夫だ。流星」
そんな会話をしつつ奈々を見ると。
涙目になっていた。
俺達は少しだけ狼狽える。
だが、奈々はそうじゃ無いよ、と首を振った。
「.....心配されているんだってね。嬉しくなっちゃって」
「.....あ、ああ。そういう事か。心配させんなよ」
「.....ごめんなさい。お兄さん。りゅーちゃん。でも.....本当に有難う。心配してくれて」
その様な会話をしていると。
女性の店員が此方にやって来た。
それから俺達に柔和に言う。
「宜しければ抱っこされますか」
え、と流星と奈々は言う。
それから顔を見合わせてから。
じゃあお願いします、と言った。
俺はその様子を.....優しく見守る。
☆
「この犬、とっても可愛い!」
「このチワワも!」
室内でアルコールらしき液体を手に噴射された。
犬って抱えるのにそんな事が必要だとは初めて知る。
それから子犬を抱えている、二人。
キャッキャッ言っている。
まぁなんつうか.....小学生の女の子だな。
俺は苦笑しながら見つめた。
「でも.....久しぶりだなぁ。犬って」
「.....ん?奈々。お前、犬飼った事有るのか?」
「うん。そうだね。思い出しますよ、色々。.....12歳で死んじゃったんです。中型犬だったけど.....とっても可愛い飼ったんです」
聞いてからゾッと背筋が凍りそうになった。
そんな感じで少し複雑な目で見つめる。
だけど、奈々は大丈夫だよと笑顔で話す。
問題無いよ、という感じで。
「私はそっちにまだ行かないからって話してる。お兄さんが居るから」
「.....」
「.....」
何でお前はそんなに強いんだろう。
奈々、お前は.....。
それを考えつつよく見ると、チワワがジッと奈々を見ていた。
奈々はそれをニコッとして撫でる。
「.....可愛いね。君。オスだっけ?」
「ワンッ」
奈々に元気良く吠えた。
それからクゥーンと声を出して甘える。
その行動に近くに居た女性の店員が驚いた様に声を出した。
それからニコッとする。
「.....あら?珍しいですね。その子.....普段はあまり吠えないんですが.....」
俺達は驚愕した様に顔を見合わせた。
それから.....そのチワワを見つめる。
そうなのか。
これには奈々は何かを悟った様に涙を浮かべる。
「.....もしかしたらこの子は天国と繋がっているのかも.....」
「ワンッ」
「.....だよね。私、頑張らないとね」
「ワフッ」
返事を交わしている様な。
そんな感じにも見て取れる。
そのチワワは離れようとも暴れようともしなかった。
奈々をまるで飼い主の様に見つめて。
それから、ヘッヘッヘ、と舌を出した。
俺は嬉しそうな奈々を見ながら。
幸せな気持ちになった。
元から知り合っている様な絆に。
涙も出そうになる。
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