第12話 それで諦めるの?ヒーロー
奈々の言葉を聞いて、深く考え込んでいた。
何を考えていたかと言えば.....簡単だ。
先程の奈々の.....あの言葉を考えていたのだ。
俺に対して、告げた一言を。
『別れましょう』
その言葉を、だ。
俺は.....複雑な思いだった。
何というか、このまま別れるのは別に構わないと思う。
未練が無いとかそんな事じゃないのだが。
何というか.....俺が俺だから。
でも何だろうか。
このまま別れるのは.....何か、何か突っ掛かる。
より正確に言えば.....ご飯が喉につっかえる様なそんな後味の悪い様な。
そんな感覚だ。
俺と安藤は缶コーヒーを持って飲みながら病院の外に居た。
この場所は病院の中庭で有る。
安藤に話す為に来た。
流星の事を伏せながらも安藤には事の有様を全て話したのだ。
それからというもの、安藤は.....ずっと考えている。
「.....えっとな、俺は童貞だけど.....女が別れ言葉を切り出すのは相当な勇気がいると思うぞ」
「.....だよな」
「.....重く受け止めるべきだと思うんだ」
「だよな.....」
安藤は.....これまで見た事も無い様な真剣な顔だった。
俺は.....その顔を見ながら眉を顰める。
安藤の言葉には鉛の重しぐらいの重みが有った。
それが俺の背中に乗っかる。
そう思いながら居ると。
電話が掛かって来た。
プルルルル
「もしもし」
『お兄ちゃん。何考えているの。別れてそのまま?』
「.....」
声音に.....言葉が詰まってしまった。
スマホを握る手が.....動かない。
声が出なかった。
何だろうか、簡単に言えば.....ネジ式の時計が止まる様に動かなくなる。
俺は必死に掠れているかも知れない声を絞り出した。
「.....流星。俺はな.....」
『.....お兄ちゃん。私の願いはどうなるの』
「.....すまない.....」
『.....これで諦めるの?』
別に諦めては無いんだ。
だけど.....女の子がそう言ってしまった。
俺は.....男として諦めも持った方が良い気がするのだ。
だから.....俺は配慮したと言えるのだが.....。
しかし、流星は決してその様な事は言わなかった。
『お兄ちゃん。流星は.....お兄ちゃんを見損なうよこのままじゃ。お願い。諦めないで』
「.....」
俺を見損なうという言葉が胸に突き刺さった。
俺は.....ズキっとガラスの破片が突き刺さる様な感覚を感じながら話を聞き続けた。
流星の声はだんだんと涙声になっていく。
『お兄ちゃんは諦めたら駄目なの。ヒーローだから』
「.....」
『.....お兄ちゃんがどんな感じでも.....お兄ちゃんは私を救ってくれた。だから.....ヒーロー。お願い.....私の.....友人を救って』
完全な涙声で俺に訴え掛ける、流星。
外に居る様だが.....それでも掛けてきたという事はそれだけ必死だという事だ。
俺は.....昔の事を思い出した。
深追いしてその全てに傷を負った俺の事を。
だけどそんなので良いのか?
今、俺はそんな過去の俺をぶっ壊す局面に来ているのかも知れない。
俺はこんな場所で立ち止まっている場合か。
涙を流している女の子が居る。
俺は.....止まっている場合じゃ無い気がする.....。
直ぐに俺は踵を返した。
「.....すまない。流星。俺は.....立ち止まっている場合じゃ無かった」
『.....グスッ.....え?』
「.....俺は話し合うよ。奈々と」
『.....うん。お願い。救って.....ヒーロー.....』
必死の言葉なのに。
じゃあなも言わずに流星の電話を切ってしまった。
それを少し後悔しながらも。
俺は.....安藤に向く。
それから.....驚いている安藤を見つめた。
缶を横のゴミ箱に捨てる。
「.....安藤。すまないが先に帰っていてくれ。俺は.....」
「.....もしかしても.....行ってくるんだな」
「.....ああ」
俺は頷く。
そして俺は鞄を持って駆け出した。
その際にこの様な呟きが聞こえてくる。
俺に対して言ったのかどうかは分からないが。
「.....変わったな」
その安藤の一言が、だ。
俺は.....その一言を聞いて病院の中庭を駆け出す。
病院内は走れないので早足でそして.....奈々の病室までやって来た。
開けると目の前に奈々が驚愕して居た。
雑誌でも読んでいた様だが。
俺は.....ゼエゼエ言いながら.....奈々を見つめる。
奈々は.....突然の事に目線を彷徨わせていた。
俺は.....真剣な顔で奈々を見る。
「.....奈々。話が有る」
「.....えっと.....分かります。なんのお話か。でも.....私は.....友人の事も大切なんです」
「.....良いか。奈々。よく聞いてほしい」
「.....何をですか?」
今から話すのは全てが流星の気持ちだ、と俺は告げる。
奈々は涙目で目線を彷徨わせた。
俺は病室のベッドに近付く。
それから.....ベッドに手を付いて言った。
「奈々。流星の昔を知っているか」
「.....?.....いいえ.....知らないです。そんな事を話す様な.....子じゃ無いから.....」
「.....流星は.....昔、病弱でイジメを受けていたんだ」
「.....え?」
そう、イジメだ。
今のお前とは違うが病弱で.....肺の病気だったのだ。
俺は.....その事を告げ、そして.....奈々を再び見つめる。
「.....流星はな、病弱で.....俺を頼るしか無かった時も有った。でも考えて欲しい。そんな状態でも流星が願っている。俺とお前の関係を。確かに流星は.....自分の恋も有る。だけどお前と俺の関係の方が大事だと切に願っているんだ。それを理解して欲しいと思っている」
「.....りゅーちゃん.....病気持ちなら.....尚更.....側に居てあげた方が.....」
「お前は流星の.....気持ちを良く確かめて無い。友人として.....どっちを取るべきかを考えた事は有るか?それが全てか」
「.....無いです。でも.....」
でも.....と。
奈々は葛藤をしている。
気持ちは本当に良く分かる。
でも俺は.....流星の気持ちを汲みたい。
だから何とか説得出来ないかと思っているのだが。
まるで多分、俺の様子は.....選挙者の叫びの様だろうな。
だけども知って欲しいんだ。
とにかく、だ。
奈々は手を口元に当てる。
「りゅーちゃんの気持ち.....私は.....うわべだけしか.....」
「確かにお前の気持ちも分からなくも無い.....でもな。聞いて欲しい」
「.....?」
「先ず、流星が本気で願ったのはこれが初めてなんだ」
俺は必死に言う。
奈々の手を取って、見据えながら。
そう、流星がマジに願ったのはこれが初めてだと思う。
俺は.....その流星の気持ちを.....知って欲しかったのだ。
目の前の奈々は.....衝撃を受けている。
「.....私.....りゅーちゃんにそんなに思われて.....それで.....私.....」
「.....」
「じゃあ.....恩返し出来る様に.....お兄さんと付き合わないといけない.....ですね.....」
奈々は嬉しさ故か、それか分からないが。
号泣し始めた。
これで良いのだろうか?
鍵、流星。
俺は.....この様な感じで良いんだよな。
そう思っていた時だった。
ガラッ
「.....!?」
「りゅ、流星!?」
流星が息を切らしながら入って来た。
俺は.....かなり驚く。
奈々も、だ。
それから流星は俺達に近付いて来る。
流星は奈々の手を握った。
「ななちゃん。私ね、お兄ちゃんが好き。でもね私は.....貴方が幸せにならないなら恋心が破綻しても良い。だから.....お願い。別れないで」
「.....りゅ.....りゅーちゃん.....」
握手の間、涙を流し出す奈々。
俺はそれを見ながら.....流星を見た。
流星も涙目だ。
本当に.....。
「.....良い友達を持ったな。流星」
「.....そうだね。お兄ちゃん。お兄ちゃんの.....お陰だね」
「.....何もしてない」
全てお前らが解決した様なもんだ。
しかし.....これで女性恐怖が.....治ったら良いけどな。
俺はその様に思いながら.....目の前の光景に笑みを浮かべた。
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