第五章 別れ

第11話 別れましょう

「谷川。次の時間の予定って何だっけ?」


「ああ、別教室の次の予定な。それは.....」


安藤は配慮をしている様だ。

俺に対して、だ。

河瀬が近付いて来ない様に.....度々、俺に話し掛けてくれる。

俺は.....安藤には感謝しか無かった。


少なくとも.....河瀬とあまり話す気にはならない。

俺が花ならあいつは除草剤に近い。

だから枯らしてくるのだ。

そんな河瀬は俺を偶に見て来ては周りの女子生徒と話していた。


「早めに移動しようぜ。.....なんか俺も好きなオーラじゃ無い」


「.....ああ、そうだな」


少なくとも良い気分では無い。

アイツが.....転校生か。

俺は.....過去を思い出すが.....良い事は何も無いし。

と思っていると河瀬がやって来た。


「ねぇ」


「.....何だ」


「.....アンタ、私の友達になってくれない?男友達は一人も居ないから」


「.....ごめんな。死んでもお断りだ」


吐き捨てる様にして。

そして俺は安藤と共に別教室に移動した。

なぜこんな事をするんだ神は。

俺に.....試練でも与えているのか?

ふざけすぎるだろ幾ら何でも。



その日は放課後になった。

放課後、俺は安藤と共に帰ろうとする。

すると背後から声が聞こえた。

俺は振り返る。


「.....何だよ」


「.....その.....私はアンタにした事、凄い悪かったって思ってる。それだけは知っておいてほしい」


「.....何故。お前は俺を殺したも同然だ」


「.....理由は全て話す。私、あの後.....イジメを受けたから。アンタが居なくなった学校で」


震える、河瀬。

流石にその言葉には振り返らざるを得なかった。

何だそれ?イジメ?

コイツが、か?

そんな馬鹿な事が?


「.....何故、イジメられたんだ」


「.....私、アンタが居なくなってから私のやり方は気に食わないって.....イジメを受けたの。だから.....腕に殴られた傷が残ってる」


確かに殴られた様な傷が有る。

俺は.....河瀬を見る。

だから何なのだ?

俺を追いやったのは.....コイツだ。


「.....私、アンタを.....想っている訳じゃ無いよ。だけど悪かったって思ってる。それだけは知っておいて。お願い」


「コイツに耳を傾ける必要は無いぜ。谷川」


「.....安藤」


安藤は少しだけ河瀬を睨みながら。

そのまま安藤に手を引かれ。

俺達は放課後のオレンジ色の光が差し込む教室を後にした。



坂を下りながら通学路を歩く。

鞄を背後に持ちながら安藤は俺に目線を向ける。

そして言ってきた。


「ところでよ。俺も奈々ちゃんの病室に行ってお見舞いしたいんだけど良いか?」


「ああ。お前なら歓迎だわ」


「.....有難うな。.....にしても白血病か.....」


安藤になら話しても良いかと思って俺は昼間に白血病の事を話した。

すると安藤は心配してくれて。

そして.....奈々をお見舞いしたいと言ってくれた。

やっぱりコイツは.....無くてはならない相棒だな、と思いながら俺は安藤に向く。


「.....白血病って血液の癌だよな?」


「.....そうだな」


「.....でもまあ、癌でも治るだろ。ハッハッハ!」


安藤は何時もこんな笑顔で明るい。

その為、俺は.....助けられている面も有る。

俺は.....安藤の姿に少しだけ笑みを浮かべて。

それから病院へ向かう道を歩いた。


「こっちから総合病院に行ける。行くか?」


「ああ、行くぜ?」


満面の笑みを浮かべながら安藤は返事をした。

俺は.....柔和な顔をして、安藤に返事して。

総合病院への道を歩いた。

それから病院に入って.....受付で面会の許可を貰い.....病室に向かう。



病室に来ると、待っていたよ、と奈々が言った。

俺は.....その姿をみながら少し複雑になる。

包帯の巻かれた腕、点滴。

それがいっぱいだ。

だけど.....その痛みも感じさせない程の笑顔で俺達を迎えてくれた。


「今日はお友達も一緒なんですね」


「.....ああ、えっと初めてかな。安藤だ」


「安藤智彦っす。奈々さん」


頭を下げる、安藤。

俺は.....紹介してから丸椅子に腰掛けた。

そして安藤も丸椅子に腰掛ける。

奈々はニコニコしながら俺達を見つめてくる。


「.....今日は暇だったからね。嬉しい。お兄さんが、安藤さんが来てくれて」


「.....調子はどうだ?奈々」


「うん。最近は安定してる。抗がん剤もあまり必要ないみたい」


「.....そうか」


安藤はそれを真剣な眼差しで見つめる。

俺は.....その安藤を見ながら.....奈々を見る。

奈々は安藤の方を見ていた。


「.....お兄さんのお友達ですか?」


「そうっすね。バリバリの相棒同士です」


「.....その、じゃあ、安藤さんにお願いが有るんですが.....聞いてくれますか?」


「え?」


お兄さんの事です、と奈々は話す。

俺は?を浮かべながら安藤と奈々を見た。

そして奈々は安藤に言葉を発する。


「.....私が居ないとお兄さんは.....何時も暗いんです。だから明るくしてあげて下さい。お願いです」


「.....ガッテン承知です」


「.....奈々.....お前.....」


俺は額に手を当てて溜息を吐く。

それを奈々はクスクスと見つめて。

そして.....柔和な顔をした。


「私が好きなお兄さんだから」


「.....」


「うおー。熱いっすね?ヒャッハー!」


「安藤お前.....」


病室だっつーの、静かにしろ。

と思っていると奈々が安藤にまた向いた。

そして声を掛ける。


「あ、その.....安藤さん、すいません。席を外してもらえますか。ちょっとお兄さんとお話しがしたいので.....」


「おう、大丈夫です」


「.....あ、すまんな。安藤」


「いいよ。お前らの秘密の話だろ?ハッハッハ」


そして安藤は親指を立てて出て行く。

俺は.....それを頭を下げて見送った。

それから直ぐに奈々に向く。


「.....どうしたんだ、奈々?」


「.....お兄さん。りゅーちゃんの事です」


「.....!」


まさかの言葉にギクッとした。

手汗が滲む。

まさか.....りゅーちゃんとはあの事か?

そう、俺の事が.....好きって事だ。


「りゅーちゃん.....お兄さんを好いているんですか?」


「.....違うぞ。奈々。それは.....」


「答えて下さい。嘘は吐かないで下さい」


奈々は真剣な眼差しで俺を射抜く。

途中までふざけた感じだったが俺は.....何も答えられなくなった。

俺は.....顔をゆっくりと上げる。

そして.....奈々を見つめる。


「.....奈々。流星は.....俺を好いている。だけどな、俺を応援している。つまり.....奈々。お前と俺を、だ」


「.....そうなんですね.....りゅーちゃん.....」


「.....ああ、そうだ」


俺は.....有りのままの全てを告げた。

そして.....奈々の答えを待つが.....次の答えに。

俺は開いた口に衝撃を受けた。


「.....別れましょう。お兄さん。状況が状況ですから」


ただ、その一言に、だ。

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