第8話 自販機の少女

何故だろうな。

俺の周りに居る奴らは皆、不幸になる。

だから俺は.....恋愛が嫌いだった。

その筈だったのに.....彼女なら大丈夫だと近付き。


安心していた馬鹿野郎。

俺だ。

近付くのを恐れていた癖に.....不幸にまたしている。

何をやっているのだろう俺は。


「.....」


目の前に自販機が有り煌々と光を放つ。

そして横は非常口が有り。

俺は目の前の.....処置室を見ていた。

やはり俺は.....幸せになったら駄目だとつくづくそう思う。


何をやっているんだろうな。

その様に考えているとドアが開き、医者が出て来た。

俺は直ぐさま立ち上がって、医者に縋る様に医者を見つめる。

すると医者は俺に向いた。


「白血病に関連する.....何かだと思います。ですが.....酷くなったという訳では有りません」


「.....そう.....ですか.....」


マジに良かった。

これで死なせたら.....俺は合わせる顔が無い。

俺は.....思いながら医者を見続ける。

医者は処置室を見てから俺に向く。


「.....ストレスだと思います。日頃の何かのストレスが掛かったのでは無いかと思います。神谷さんのご自宅にも連絡を入れました。とにかく静養ですかね.....今は」


「.....俺のせいですね」


「.....貴方のせいかどうかは分かりませんが、恐らく違うと思います。とにかく今は薬で静養しか無いかと思います。白血病は.....血小板などが作用しなくなる恐れが有りますので.....」


では、と言いながら医者は去って行った。

そして処置室から奈々が出て来るのを待つ。

奈々とは別れよう。

そう、思って俺は.....待つ。

根性が無いとかそんなんじゃ無い。


俺は.....神に捨てられた人間だ。

だから.....これ以上一緒に居たら.....不幸になるから。

そういう事だ。

だからもう.....奈々を殺したく無い。


「俺はもう死ぬしか無いのか.....」


鍵、どう思う。

俺は死ぬべきか?

この世に居ない方が.....幸せなのか?

両親が別れたのも俺が原因だろうしな。


自殺.....それも良いかも知れない。

薬剤を思いっきり飲んで死ねば.....それで。

と思っていると。

目の前の自販機に少女がやって来た。


お金を持っているからして.....多分.....飲み物を買いに来たな。

俺は思いながら、その少女を見つめるが。

少女はお金の入り口に手が届かない。


「.....大丈夫か?」


「.....あ、はい!」


「.....!」


その少女の顔は.....随分と.....鍵に似ていた。

俺は.....少しだけ俯きながらも直ぐに顔を上げる。

そして苦笑しながら掌を出した。

少女は戸惑う。


「おい。何を買いたいんだ?」


「えっと、オレンジ!」


「.....ジュースか。じゃあそれお兄さんに渡しな。買ってやるよ」


「え?あ、えっと.....ありがとう!」


少女は無垢な笑顔を見せた。

俺は.....お金を受け取るなり、購入。

そして少女に渡した。

少女は俺の顔とオレンジジュースのペットボトルを見て。


「ありがとう!」


その様に話して去って行った。

俺は.....手を振りながら見送って。

そして掌を.....目に付けた。

鍵.....の事を思い出して.....涙が溢れる。


「.....まだ死ぬ訳にはいかないのか.....俺は」


そう、呟いて涙を拭くと。

処置室の自動ドアが開いた。

そして.....奈々がベッドに横たわって出て来る。

鼻にチューブという様な奈々。

しかし意識は有る様で俺を見るなり.....笑顔が咲く。


「.....お兄さん」


「.....奈々.....」


「.....あはは。ごめんなさい。私.....」


「.....」


奈々はニコニコしていた。

俺達、別れよう。


そう、言えない感じの笑顔だった。

俺は.....俯いて、拳を握る。

ただ、その一言だけは今言いたい。


「俺はお前を不幸にしているな」


しかし、喝が入った。

奈々は怒った様に頬を膨らませる。

そしてムッとした。

俺はビクッとしながら、奈々を見る。


「またそんな事を。それは無いですよ。お兄さん。怒りますよ」


「.....でもな。俺が.....」


「お兄さん」


「.....?」


俺に向いてくる、奈々。

そして.....俺を柔和に見つめた。

それから.....話す。

前も言ったかもですが、と言って、だ。


「.....私は死にません。死ねないです。お嫁さんに行って.....お婆さんになるまでは」


「.....それは一生を遂げた場合だろ.....」


「あ、ようやっと笑いましたね。あはは」


ツッコミを入れながら苦笑していると。

その様に奈々は満面の笑顔を見せた。

俺は.....すまない。

としか.....言えなかった。


「じゃあ、今から私、病室行きます。付いて来て下さい」


「.....俺が?」


「当たり前ですよ。お兄さん以外、誰が居るんですか」


「.....」


弱音ばかりじゃ情け無い。

そう言う様な顔だった。

俺は.....その顔を見ながら、涙が出そうになるのを堪えて。

先程の少女に重ねて思い出す。


『翔ちゃんって.....笑顔が素敵だからね』


「.....」


「どうしたんですか?」


「.....何でも無いよ。奈々」


奈々はそうですか?と言う。

俺は.....何時もお前に助けられるな、鍵。


正直言って.....会いたいよお前に。

でも.....会いたいからと言っても会えないから.....。

だから俺は.....お前がアドバイスをくれているって思っている。


あの少女と言い。

俺は.....生きるべきなんだって。

アドバイスをくれているんだって。

思っている。


それでも良いか?

鍵。

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