第三章 傷を抉る女子

第6話 第二の恋人だった人物

水族館と言えば.....何だろうな。

簡単に言えば.....俺にとっては幼馴染との思い出の場所でも有る。

幼馴染の鍵が生前この場所に俺と共によく来ていたから。

だから.....思い出の場所なのだ。


たった.....二年の出来事だったけど俺にとっては.....宝物だ。

掛け替えの無い.....宝物だ。

本当に、だ。


その事も有り.....あまり来たくは無かったが。

何故か.....この場所をデートスポットに選んでしまい。

俺は.....何故だろうと考えてもいた。

目の前で小さな水槽に目を止める神谷さん。


「クラゲさんですね」


「.....クラゲだな。綺麗だ」


四葉のクローバーの様な頭をしたミニクラゲが目の前の水槽を泳いでいる。

俺はそれを見ながら、少し柔和になっていた。

少し.....懐かしい気がする。

水族館.....何故.....この場所を神谷さんと一緒の場所に選んだのだろうか。


「.....大丈夫ですか?」


「.....ああ。大丈夫と言えば.....まぁそれなりには大丈夫だ」


「.....そうですか。あ、次に行ってみますか」


俺の手を引きながら、ニコッとする神谷さん。

八重歯を見ながら俺は.....頷いた。

そして次の.....サメが居る様な場所に行ってみる。

それで俺は足を止めた。


思いっきり見開いて、青ざめる。

足が.....ガクガク震え出した。

その様子に神谷さんが俺の視線を追う。


俺の視線は目の前の.....水槽を見ている女性に向いていた。

同級生だが.....コイツ.....は最も居てはならない存在。

その同級生は俺に気が付いたのか。

声を掛けてくる。


「あれ?久しぶり、翔太じゃん」


「.....何故お前.....この場所に居る。河瀬錦(カワセニシ).....!」


「.....あれ?その子、彼女?」


必死に神谷さんを守る俺。

神谷さんは???を浮かべている様だが。

俺はそんな事より聞きたい事が有った。

コイツに、だ。


「.....お前さ、なんでこの場所にいんの?」


「.....え?私?私は.....別に。この街に親の都合で引っ越して来る事になったから」


「.....」


『アンタ.....マジに私にとっては不幸だから。近寄らないで』


昔の記憶が蘇る。

そう、この女は.....俺の幼馴染を馬鹿にした挙句。

俺を不幸扱いして、学校中に悪い噂を蔓延させて俺が転学をせざるを得なくなった原点に近い。

二番目の恋をした女の子で、そして。

俺が恋愛に臆病になった原因の1。


「.....でもさ、翔太。付き合うのは良いけど、その子.....また不幸にするつもり?」


「.....それは.....ってか、俺のかのじ.....」


そこまで言った時。

突然、神谷さんがムスッとして言い始めた。

怒った様に、だ。


「私は不幸なんかじゃ無いです。この人に出会えて幸せなんですけど。貴方、誰ですか?」


「おい!?神谷.....!」


俺は必死に止める。

周りがザワザワする中、神谷さんは強気だ。

するとジト目で河瀬が、ヘェ?、と言って言葉を続けた。

ヘラヘラしている。


「.....貴方。その人に恋をしているなら止めといた方が良いよ。翔太は.....全てを不幸にするから」


「それは貴方でしょう。貴方が不幸にしているじゃ無いですか」


「.....私は別に不幸にして無いから。不愉快な事を言わないで」


「そうですか?でも.....お兄さんは.....貴方を見て青ざめていましたけど」


ビシバシ突っ込みに行く、神谷さん。

俺は.....頭に手を添える。

すると河瀬の目が変わった。

不愉快そうに見つめてきている。


「.....じゃあ勝手に不幸になったら良いじゃ無い。私は知らないから」


「不幸じゃ無い。.....もう良いです。話にならない。行きましょう。お兄さん」


激昂した様に言いながら。

俺の手を握ってその場から立ち去る神谷さん。

河瀬の後ろ姿を見ながら、俺は神谷さんに話した。


「お前.....」


「あの人.....お兄さんの良い点を何も知らない癖に.....本当に不愉快です」


「.....」


神谷さんはその様に話しながら。

俺に向いてくる。

その目は心配そうな目をしていた。

俺の様子を見ながら、だ。


「.....大丈夫ですか?」


「.....いや。有難うな。お前が居なかったら.....俺はまたアイツに.....不幸にさせられる所でも有った.....」


「.....私の恋人を馬鹿にされるのは不愉快ですから。当たり前です」


ニコッと笑顔を見せる、神谷さん。

俺は.....その目を見ながら.....胸に手を当てた。

信じても良いのだろうか、この子を、と。

そんな神谷さんは俺の手を引きながら、野外のベンチまで行く。


「.....あそこでお昼にしませんか?」


「.....そうだな」


俺の手を引いたまま、神谷さんは俺をジッと見てくる。

そして赤面で、意を決した様に話した。


「大丈夫ですよ。どんな事が有っても.....私が守ります」


「.....」


マジに.....涙が出てきそうになる。

なんでこんなにも.....優しいのだろうか。

俺は.....顔を上げないと。

その様に思い、胸を少しだけ叩いて顔を上げた。


「.....有難う」


「いいえ.....当たり前の事ですからね」


その様に答えて、ベンチに座った。

お弁当を広げて.....という感じになる。

神谷さんも作って来た様だ。

俺達はお互いに弁当が有る事に気が付いてくすくす笑った。

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