第六話『パートナー』

 翌朝になっても、東子の機嫌は直っていなかった。ボロアパートを出た雄二を追い越すリムジンの後部座席は笑っていなかったし、教室の隅っこの銀色頭は饅頭みたいに頬を膨らませたまま。いかにも不機嫌でござい、と主張しているかのようである。

 普段からいろいろと手厳しい相棒ではあるが、ここまでへそを曲げたのは大分久しぶりな気がする。いや、常々彼女の気を悪くさせる自分も自分なのだが。


 だがこれまでなら、なんだかんだで東子の不機嫌の種というのは理解できていたのだ。例えば体型の話であったり、勤務態度の不備であったり、大事な予定のすっぽかしであったり。どれも酷いな……よく見捨てられてないな俺……と感心してしまうほどだ。

 ところが今回に限っては、その原因というものにまったく見当がつかないのだ。しいて言うなら昨日の夕飯の話だが、あの局面のどこに東子の機嫌を損ねる要素があったのか推測さえできない有様である。


 弱ったなぁ、何が原因なんだろう……雄二が上の空で、教室に出入りする生徒達を眺めていると。


「おーっす雄二。おはようさん」

「ぐえっ!?」


 突然、背中に衝撃。音もなく近づいてきた何者かにばしーんと思いっきりひっぱたかれたのである。

 まぁこういうことをしてくる奴は知り合いに一人しかいないので、『何者か』などではないのだが。その証拠に、振り向いた先には銀色の登録証OICC――未契約のOI能力者の証。


 だが雄二は知っている。その銀色は、彼が未だパートナーを持たない製鉄師であることを示すものではなく、OI能力者のもう一つの『在り方』を示す色であることを。


 椅子の上から見上げれば、色素のまばらな髪をヘアバンドで一纏めにした、細身の少年が立っていた。着崩した制服は当然聖玉学園のもの。青色のネクタイは雄二と同じ高等部一年生のしるしだ。


「なんだ、八太郎か。敵襲と思ったわ」


 少年の名は三枝みつえ八太郎やたろう

 雄二とは中等部時代からの付き合いである彼は、所謂『魔鉄加工技師ドヴェルグ』の卵である。

 彼は雄二の反応を聴くと、明るめで端正な顔立ちをむっと歪めて不満そうに返して来た。


「ミッチーだっつってんだろ。いつまで経っても俺の愛称が浸透しねぇのは大体お前のせいだぞ雄二」


 相変わらず変なこだわりがあるなぁ、こいつ。

 偏屈で頑固、言うなれば職人気質な者が多いドヴェルグの中で、八太郎は珍しくフランクな佇まいの人物だ。どちらかといえば魔鉄加工技師は自分の殻に籠る者が多いが、彼は進んで人の輪に入っていくタイプである。

 そんな彼にもドヴェルグ特有の譲れないこだわり、というものがあるらしく。それがあの妙な渾名なのだというから良く分からない。


 そう、良く分からないのである。

 何せドヴェルグとは、雄二にとって、同じOI能力者でありながら『まるで違う』存在なのだから。

 

 OI能力者には、二通りの在り方がある、という話を以前にした。

 一つは製鉄師。鋼の巫女たる魔女と契約し、自らの垣間見る異界を地上に顕現させる魔鉄器時代の魔法使い。 

 その対となるもう一つの在り方こそが、魔鉄加工技師である。


 魔鉄加工技師はその名の通り、魔鉄を加工し、特別な力を持った道具……言ってしまえばマジック・アイテムとして成立させる技術、『魔鉄鍛造スヴァルト』を修める技術者たちだ。

 彼らは己のオーバーワールドを一時的に、魔鉄に特別な力を与える。製鉄師にとっての魔女が、彼らにとっての魔鉄、といえば分かりやすいだろうか。

 

 ドヴェルグの作った『魔鉄器』と、OI能力者がただ加工しただけの魔鉄では、その特異性に大きな開きができる。


 例えば、電気もガスも使わずに、長時間点灯し続けるランプとか。

 例えば、使い手の意思に呼応して刀身が変形する、サブカルチャーもびっくりな機巧剣である、とか。


 これらは製鉄師が鉄脈術の形でOWを顕在化させるのと同じく、加工技師が己のOWを『焼き入れる』ことで完成する。 

 魔鉄器時代の担い手とは、むしろ製鉄師たる自分たちではなく、彼らドヴェルグの方にあるとさえ言えるほど、今や彼らの加工技術は世界の在り方を大きく変えている。


 そんな変革の時代に、さらなる技術変革をもたらしたい――学園の校風上、得てして規模のデカい夢を持ちがちな聖玉の生徒の中でも、輪をかけてビッグな夢を懐く八太郎は、雄二だけでなく東子とも中学時代からの友人である。

 その関係で、自分たち二人には常々よくしてくれるのだが……。


「なぁ雄二」


 こう、付き合いが長いと変なところで勘が利いて若干面倒くさい。

 次に八太郎が何を言うか、なんとなく表情で察した。その質問されるの六回目だわ、と内心でため息をついてしまう。


「おぃさんと喧嘩でもしたのか?」

「くっそやっぱり予想通りだ。なんで毎回そうなるんだよどいつもこいつも俺のこと疑いすぎだろ。なんなの? そんなに信頼ないの?」


 どうやら、今の東子の様子は相当におかしいらしい。今朝方から何度も別のクラスメイトから同じ質問を投げかけられているくらいだから間違いない。そして得てして雄二の方が悪者扱いされるのだ。いやまぁ、こういう状況下においてはまず男が疑われるものというのは知っているのだが。


 確かに今日の相棒はひときわ不機嫌に見えるが……そんなに心配されるほど、自分と彼女の間の空気は悪いのだろうか?


 直さなくちゃなぁ、と常々思いはするのだが、雄二は己が比較的デリカシーのない側の人間だという自覚がある。そのゆえ、東子を怒らせては翌日まで引きずる、ということは日常茶飯事。いくらまだ四月の半ば、高等部に上がってからのクラスメイトたちが自分たちを良く知らないとはいえ、ちょっと東子が不機嫌なくらいの光景には、もう彼らも慣れたころのはず。

 そんな状況下にあって、あらためて「喧嘩したのか」と問われる。こんなことは初めてだ。


 何が何やらさっぱりわからない。説明を求める――そんな意図を込めて友人の顔を見上げる。


 するとあろうことか八太郎はため息を返してきたではないか。理解が得られていない……!

 

「いやだってこの状況下で関係してそうなのどう見てもお前だし……そもそもお姫ぃさんが表情変えるなんてお前が関係してるときだけじゃん。いっつも無表情なのにさ」

「馬っ鹿お前。東子わりと表情豊かな方だろ。ころころ顔変わるし……というかそういうのはお前の方が詳しいだろ、八太郎」

「馬鹿はお前じゃい。俺のことは親しみを込めてミッチーと呼べと言うとるだろうに。二回言ったぞ? いいか、俺二回言ったからな!!」

「それ今関係ある?」

「大有りだね。思うにお前は信頼関係を築くのが下手すぎだ。すぐ地雷踏むし」


 会話相手が謙虚で寛大な俺じゃなかったらどーするつもりだったのよ、とおどけながら、八太郎は肩をすくめる。それはお前の拘る位置が変なだけじゃないか、と言いかけたところで、多分こいつが言いたいのはこういう反射のことなんだろうな、と口をつぐむ。


 代わりにそっぽを向きながら、文句を一言。


「うるせー。気にしてんだぞこっちも」

「気にしてんなら気を付けろっての。そういうところだぞお前」


 八太郎は鞄を下ろすと、雄二のすぐ後ろの席――ついでに言うならホームルームにおける彼自身の席――にどかりと座った。雄二が似たような着席の仕方をすると素行が悪く見えるが、こいつがやるとどうにもアウトローの偉い奴というか、若干格好良く見えるのだから不思議なものだ。やはり見た目か? 見た目の問題なのか?


「大体ね。お姫ぃさんの表情が豊かだと思ってんのはこの学校の生徒じゃお前くらいだってーの。さもしい独り身のドヴェルグに対して惚気ないでくださいます?」


 今の仕草とかそっくりだったんだけどー、などとからかい半分、ひがみ半分の笑みが寄越される。ひがみの方は大方冗談だろうが。どこぞの赤毛の女教官と違って、八太郎は男女交際に対して恨みつらみがあるタイプの人間ではない。今のは製鉄師と違って契約者を必要としないドヴェルグが、「花がない」と己の境遇を嘆いてみせる一種のジョークである。


「惚気てはねーよ。そもそもそういう関係じゃないって言ってるだろいつも」


 そういう背景上、男女のペアというのはどうにも邪推されやすい。実際、皇国において「僕と契約してください」はニアリーイコール「僕と結婚を前提にお付き合いをしてください」、と言っているようなものである、と聞いた記憶がある。統計的にも、男女のペアがそのままゴールインする確率は八割近くにも上るとかなんだとか。そのデータを信じるのなら、製鉄師というのはその道を選んだ時点で、青春に悩むドヴェルグからすれば勝ち組なのだろう。

 

 正直なところ、二人で一人の毎日を送っていると、ドヴェルグは自由でいいなぁ、とちょくちょく思うのだが。


「えぇー? 本当にござるかぁ?」

「そうなのでござるよ」


 現に今がそうであるように。


 ちらり、と窓際の姫殿下に目をやる八太郎。釣られて相棒の方を見てみれば、彼女はそっぽを向くように窓の外を見たままだった。不満のオーラが周囲を侵食して見える……あまりの迫力に、自然と二人そろって視線を外してしまった。おおこわ。


「それで? 何があったの」


 じっとこちらを見据え、問うてくる八太郎。そう聞いてくれるのを待っていた。

 この男、確かに魔鉄加工技師ではあるのだが、その才能は情報収集や魔鉄器の管理といった、どちらかといえば『商人』『情報屋』としての領域で多く発揮される。件の夢というのもなにやら世界中の技術を集めてどでかい革新を起こすことだとかいうが、その辺りは雄二にはよく分からない。

 ので、今は彼の、様々なことに通じた情報通としての力を借りるのが目的だ。


 こういうとき相談に乗ってくれる同年代ってのは大分助かるもんだなぁ、としみじみ思う。この類の話題をルートヴィーゲにしたところで、「知らん」「自分で考えろ」「全く贅沢な悩みだな爆ぜろリア充」などとすげなく追い返されるのが関の山だろうに。


 いや、これに関しては、ルートヴィーゲ先生と八太郎の人格の差だな……などと失礼なことを思いながら、雄二は昨晩の出来事を語り出す。


 依頼を終えて東子を家まで送ったこと。

 道中、東子の様子がおかしかったこと。

 東子を送り届けて帰ろうとしたら、呼び止められたこと。

 女中括理になにやら揶揄われたこと。

 括理から夕食に誘われるも、家主である東子の鶴の一声で追い出されてしまったこと。


「最後の方とか石まで投げられたんだぞ。正直あそこまで東子が怒ってるのは初めて見たかもしれん」


 元々激情家というか、比較的怒りっぽい子ではあるけれど。わりとすぐ手も出るし。よく脇腹とかつねられる。

 だがそれにしたって昨日は度を超していた気がしてならない。


 一通り事実と感想を聞き終えて、八太郎はふぅむと低く唸る。若干癖毛気味の斑髪を弄りながら、彼は一言、こう返した。


「うーん、そいつぁお前が全面的に悪いわ」

「嘘だろ!? 今のどこに怒られる要素があったってんだ……」

「だからそういうところだっつーの。そりゃお姫ぃさんもキレなさるって」


 もう何が何だか分からない。色々と飛躍し過ぎな気がするのだが。


「……確かに、タダで飯にありつこうと思ったのは良くないかなとは思うけどさ」

「うーんこの鈍感野郎。お姫ぃさんもお姫ぃさんで整理がついてなさそうなのが実に救えねぇな……」


 あまつさえ哀れみを帯びた苦笑まで向けてきやがってからに。思わず不満を込めたふくれっ面をしてしまう。するとやっぱお前ら似た者カップルじゃねぇか、ともうひと笑いされてしまった。


「聞いた感じ、お姫ぃさんが特別キレたのは不幸な偶然というか、色々と積み重なった結果だわな。特効薬は無し。お手上げ。匙は投げられた! って感じ」

「マジかー……どうしたもんかな」


 いわゆるコミュ強、雄二よりも遥かに人の心を読み取る力に長けた八太郎をして、お手上げと言わせしめるこの状況。正直、打開策が見つかる気配がしない。

 よしんば何かしらの糸口を掴めたとしても、それを活かせる自信が全くない。一体どうしろというのだ。


 そんな雄二に、ヘアバンドの友人はうーん、とひとつ唸ってから。


「まあでも、正直『なにをやるか』は関係ないと思うけどな」

「へ?」


 世にも不思議な助言を投げかけてきた。


「『お前が』なにかすることが大事なんだよ、こういうときは。お姫ぃ様を全力で、最優先で構ってやれや」

「そういうもんか」

「そういうもんらしい」


 宝くじが当たるかどうかと女の子の内心は結果見るまで分かんねぇからな――少々微妙な例えをあげる八太郎。今さっき特効薬はない、って言ったばっかりじゃねぇか、と、内心で文句を言ってみる。


 まぁでも、なんとなく輪郭は掴めたような気がする。

 要するに東子は、自分が彼女そっちのけで飯に釣られたのが不服だったのだろう。恐らくはそれが火種となって、様々な要因でキレた、と。


「あれかな、なんかアクセサリーでもプレゼントするのが良いのかしら」

「紹介しようか? 最近うちのサイトに腕利きのが出店するようになってな」

「やだよ。お前んとこ高いじゃん。手ぇ出ねぇよ」


 八太郎はその『技術蒐集』という目的の一環として、自前で魔鉄器のオークションサイトを経営している。一丁前に高級志向なのか、あるいは八太郎の経営手腕によるものか……売り手には腕利きが、買い手にはセレブが集まりやすい。以前一度だけ覗いたことがあるのだが、取引額は雄二の月の生活費と比べてゼロの数が三つほど多かった。


「うちは固定ファンつきやすいからな。価格競争が激しいのよ」

「魔鉄器は付加価値高いからなぁ……」


 込められたイメージによる特別な機能。製作者の趣味が出る、通常の細工では実現不可能な場合さえある装飾。そして一点ものであることを示す、OWを消費する『焼き入れ』――魔鉄の加工次第で無限の可能性を得る性質と、その過程をただ「イメージ」だけで通過していく都合上、魔鉄器の値段の殆どは、独自性に対しての感情が占めることになる。

 ゆえに、八太郎のオークションサイトのようにコアなファンが付きやすい場所では、魔鉄器の値段というのも相応に高くなるのだ。技術に対して賞賛を惜しまない者だけが、その商品を買うのだから。


 というわけでアクセサリーというセンは無し。別の手段を考えなければならない。


 ただまぁ、正直な話をするなら、解決法の目途はついているというか……八太郎の言葉を信じるなら、多分これが一番だ。


 どうやら気付かないうちにやたらと真剣な顔をしていたらしく、ふと気が付いたときにはにんまりとした笑みが向けられていた。なんだその生暖かい目線は。


「ま、せいぜい頑張れよ、『皇子様』。お前らがいちゃついてないとクラスの空気も悪くなっちまうや」

「別にいちゃついてはねーけど……サンキュー、八太郎」

「だからミッチーだっての」


 性懲りもない念押しはスルー。大体なんだミッチーって。アイドルか何かかよ。


 立ち上がる。教室の隅、窓の外から視線を外さない、相棒に向かって歩を進める。

 いつもならなにがしかの反応をくれるのだが、今日はそれさえない。

 

 ……ずっとこんな距離感が続くのは、雄二としても嫌だ。早急に関係を改善せねば。


 そして、その方法は一つ。

 全力で東子を構うことだ。多分。


「東子」

「なに」


 声を掛ければ、ぶっきらぼうな返答。まだ東子はこちらを見ない。


「その……昨日は悪かったな」

「別に」


 まだこちらを見ない。 


「俺、気を付けてるつもりでも、やっぱり配慮が足りないからさ……それでいつもよりも、お前のこと、怒らせたよな」

「怒ってなんかないわよ、別に」


 東子は窓の外を見たまま、そう告げる。ガラスなのか、擬態した魔鉄なのかも最早定かではない窓の向こう、調理実習室の窓からぽんと黒い煙が噴いた。家庭科の鷲沢先生が今日も料理に失敗したらしい。


「私が引き留めても、不思議そうな顔しかしなかったくせに、括理の料理一つでその気になる……そんな現金なパートナーに怒ってなんかいないわ」


 ──いや滅茶苦茶根に持ってるじゃねぇか。というか大本の原因そこかよ。

 その突っ込みを喉口あたりでなんとか抑え、雄二は次の言葉を探す。


「……まぁ、それならそういうことにしておくけどさ。その、学校終わったら、駅前までパフェ食いに行こうぜ」

「なんで」

「いや、だって昨日約束したじゃねぇか」


 戦闘中、東子に怖い思いをさせた償いに、ちょっとお高めのパフェを奢ると約束した。東子も別に忘れていたわけではないようで、ぴくっ、と肩が小さく震える。

 けれどもまだ、彼女は雄二を見てくれない。もうひと押し、あともうひと押しな気がするんだが……ああ、そうだ。


「あー、あとそれと」


 ――要するに東子は、雄二の行動優先度において、自分よりも上のものがあるように見えることが、許せなかったわけである。そのことがたまらなく不服で、それを雄二が否定もせずに逃げ帰ったから、今日までぷんすか腹を立てていたわけだ。

 どうして彼女が、そんなことで怒ったのかは分からない。下手をしたら、東子自身でも良く分かっていないのかもしれない。


 けど。それなら。

 きっと本当の所を示すことが、一番大事で。


「先週の契約記念日、ごたごたで祝い損ねただろ? 本当はもっと早くやりたかったんだけど……それも今日、いっしょにやっちまおう」

「……!」


 そこでやっと――相棒は、弾かれた様に振り向いた。

 クリアシルバーの瞳が見開かれ、本心からの驚愕を表していた。


「覚えてたの?」

「当然だろ」


 俺そこまで記憶力悪くないぞ、失礼な。とお決まりの続きを言いかけて。

 ふと、思い直す。いわく、自分のその手の発言が、彼女を往々にして不機嫌にさせるのだ、というから。


「……お前との間にあったこと……俺にとって一番大事なこと、だからな」


 ちょっと、格好をつけてみる。実際これでも記憶力が悪い方ではない。いや、いい方でもないのだけれども……でも、パートナーにとって大切な出来事を覚えていられるくらいには、働く脳味噌を持っているつもりだ。


 そういう一種のプライドめいたものの上に成り立った行動は。


「……そっか」


 なんとか、相棒に受け入れてもらえたようである。

 

 彼女の周囲に張り詰めていた、不満・不機嫌の空気が溶けて消える。代わりに、静かで凛々しい、いつもの彼女の

 ただ今日は、そこに一抹の別のエッセンスが混じっている様な気がする。なんだろう、マイナスの感情じゃないのは確かなんだけれど……察しの悪い雄二では、良く分からない。


 だからそっと、東子の顔を覗き込む。


「そっか」


 銀色の髪の下、柔らかそうな頬が、彼女にしては珍しい、はっきりとした笑みの形で上がっていた。 


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