第6話『自分勝手なばかりの、ふざけた世界で』

 余談になるが、こればかりは話しておかないといけないということがあるのだ。

アソビや、その他の人殺したちが暮らすこの世界は、諸君もお気づきの通り、

既に、

 もはや、彼、彼女らの世界は、まともな人間を生み出すこともできなくなってしまったのだ。

 人が人たるアイデンティティー、感情の非コントロール化。

自分の、自分自身の利益だけを追い求める、利己的な世界。

 『絶望世代』。これが指し示すものは、この世界の誰もが知りうる。

またの名を、「利己心増大の最終地点」ともいうそれは、

私たちの世界で言うところの、

人殺し、のことでもある。


……さて。本題である。

この物語の主人公足る人物は一人しかいないわけだが、

そう、『彼女』、、とある組織は『スマイル』だのとよんでいるらしいが。

まあいい。

絶望世代の彼女は、ずっと一人だった。


幼少期の頃。彼女はずっと生きることに疑問を抱いていた。

簡単な話である。彼女は、普通のことが普通にできなかった。

ただそれだけのこと。

そんな彼女の欠点ともいうべきものの最たるものは、

というものだった。

人が楽しんでいる時も、仲間意識を抱いている同年代を見ても。

それが、どうしてそうなるのかがわからないのだ。


年齢を重ね、少女と呼ぶにふさわしい年になった時。

彼女は一つの疑問を自分自身に投げかけた。


『真剣に生きる』とは、どういうことだろう?


誰とも自分の抱く感情を交わし合えない彼女にとって、

自分の「生き方」を考えることは、

何よりも大切なことであった。


……。

そろそろ、良いかな。

これは、『スマイル』を巡る、少し短いけれど、

あたたかな、

自分の命と、

他人の命を、


見つめていく物語。



♦♢♦♢


一定時間の身体能力強化、動体視力、それと、腕力?

「ちっともわからねえな、お前の能力。」

サトルはどこか遠い眼をしているアソビに話しかける。


「お前、本当に何者なんだ?」

すると、アソビは自分のセミロングほどの髪の毛をゆっくりと撫でつけながら、

「誰でもない、ですよ。私なんて。」

心なしか、彼女の瞳が陰っている。

「?」

「いいから、先を急ぎましょう。幸いなことに、殺されずに済んだみたいですから。」

「あ、ああ。そうだな」


そう言って、二人とも歩き始めた。


「目的地は、こっちであってるんですか?」

「ああ、間違いない。……きっとな」

サトルは、目的の部屋の前まで来て思った。

本当に、このガキを、このまま捨てていいのか、と。

別に情が湧いたわけではないのだが、不思議と、

さっき、『追悼の死神』が去り際に残していった言葉が心に残っている。


「昔から、わけわかんねえことやる奴だもんな」

「え? なんですか?」

「いや、こっちの話だ。」

「?」

今度はアソビが首をかしげる番だった。


「……ところでお兄さん」

「何だ?」

「ここは一体どこなんですか? やけに大きな扉ですけど……」

彼らの前には豪奢で、偉く大きな扉がどっしりと構えていた。


「……出口だ。」

サトルは平気でうそをつく。

「そっか、出口なんですね? 早く開けましょうよ?」

そう言って、アソビがノブに手をかけようとしたところで、


「待て」

サトルの右手がそれを制止した。

少しだけ彼女を見つめて、考える。

本当にこのままいかせていいのか?

選択肢が、何かほかにもありそうな気もする……。

いや、ありえない話だが。


「どうしたんですか? 何か不都合でも?」

「……いや、何でもない。……実は、俺は目があんまりよくなくてな、

この暗がりだから、お前に前を歩いてほしいんだ。」


「はあ、まあいいですけど」


アソビが、握ったドアノフ゛を回す。


ギギ、


そして。


「生き残るためだ。ごめんな」

サトルは、彼女の背中を押した。

「ぇ?」

アソビは少女らしく、彼の言葉の真意を掴もうと必死に頭を動かしていたが

分からなかったらしく、やはり聞き返そうとする。


だが、

「やハハハハハ!!!! ようやく連れてきやがったなあ!!!

まちくたびれたぜえ?? ケケケ!!」


サトルの方を向いていたアソビ影を大きく包み隠すように、

巨大な影が、彼女そのものを包んだ。


「!!?」

何が起こったか分からない。

ゆっくりと振り向くと、彼女の目の前に、

異形のものが立っていた。

大きく腫れたような口元。

常人の軽く十倍はある横、縦の幅。

それだけなら、まだよかっただろうけれど。


「美味そうな女だなあ!」

邪悪としか言いようがない曲がりくねった瞳。

皮膚は淀んだ黒色。

手には金棒。


『鬼』がいる。


振るえる体を必死に抑えながら、アソビは後ろの声を聴く。

「俺のために死んでくれ。」

それを聞いた彼女の顔は、

酷く、青ざめていた。



to be continued……

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