第5話今ここに有る意味
アソビが死神に対峙している時、その後ろで微睡はその異様な光景を見ていた。
髪が逆立って、少女がまるで獣のように暴れている。
それだけではなく、
あの死神の鎌を受け切っている……?
あの軍用ナイフ、さっき俺が殺した死刑囚が持ってたやつか?
いつの間にとった……?
死神はアソビと刃を交えながら、微笑む。
「腕力、じゃないですね? 貴方の能力……。」
死神は、目の前にいる少女の体躯を観察するが、どう考えても標準程度にしか見えない。
「鎌の核をついた、いや違うかな? まだそんなものじゃないですよねー?」
顎に手を当てて考える死神は、とても優しそうな目をしている。
優しい?
「何で、私をそんな目で見るの?」
アソビは心の動揺を隠すために必死で笑顔を作る。
手ごたえがない。
刃を合わせながら、これまで何度も頸動脈を狙っているのに、
一度たりとも当たらない。
「……」死神はアソビを目を細めて見ながら、何故か自分の鎌を受け止めるアソビに対して、驚くほど冷めた声を発する。
「おかしい」
「!?」
死神は彼女を鎌で振り払う。
二メートルほど飛ばされる。
空中で体勢を、真横にクルクルと回転して四つ足のように地面に着地する。
この人……?
アソビは無理やり作った笑顔を崩さず、死神の方を向こうとする。
が。
眼前に既に来ていた金髪の死神に、
顔面を裏手で殴られた。
「ッ!」
痛い!?
空に飛ばされたアソビに追い打ちをかけるように、
「やっぱり、貴方、違う」
死神は長い脚をしならせて、アソビの腹部を蹴った。
「か、はっ!!」
アソビが腹部の疼痛に苦しんでいると、
「貴方、本当に、人殺しなんですかあ?」
伸びた足をグネグネと曲げながら、死神は首をかしげる。
「ナイフに殺意が無い。覚悟もない。それどころか、戦闘中私の目の色を伺ってませんでしたか?」
「……!」
「まあ、確かに? 機械的に人を殺そうとする人間だったりとかなら経験はありますけど、貴方の年齢でさすがにそれはないでしょう?
……少なくとも貴方はそうじゃないでしょう?」
内心を見透かされたような気がして、アソビはさらに委縮した。
大抵の相手だったら、これで対応できるのに……!
「私、は……!」
死神は自身の金髪を鎌を持っていないほうの手で払いながら、微睡の方を向く。
「ねえ? 悟さん、貴方、こんなの連れて行って、どうするつもりだったんですか?」
「お前に、、関係あるのか」
「……」
途端、死神の雰囲気が変わる。
「……今更? 私と貴方に、関係が無いとでも?」
死神は微笑みながら、先端が折れた鎌を地面に放り出した。
鎌は彼女の手から離れてすぐに、バラバラになってただの土クズになった。
「くだらない……」
「何の、つもりだ……?」
「興冷めです。今の貴方は私に刃を向けることもできないみたいですし……、
貴方たちを殺すような理由が分からなくなりました。」
酷くつまらない時間を過ごしてしまったとでもいうかのように、死神はアソビ達に背中を向けた。
「……それと、お嬢さん?」
「……何ですか」
腹部を抑えながら、アソビは答える。
「自分を異常だなんて、思わないほうがいいですよ」
唐突な言葉に、息を詰める。
「……どういう意味ですか」
「貴方はこの世界で一人しかいませんし、貴女は貴女以外の誰かにはなれません。 『皆違って皆いい』なんてのは、個性に限った話であって、
貴方の価値観ではない。貴方の物差しではありません」
何を言っている、と言おうとして止める。
本当は、本心では。
「結局のところ。貴方の本質は、貴方だけにしか決められない。」
分からないふりを、
しているだけなのかもしれないけれど。
今あったばかりの殺人鬼の一人は、まるで私ではない誰かに向けて言っているように感じられる。
「私は私でいい。貴方も貴方じゃないといけませんので、ね?」
去り際に放ったその声だけは、
ひどく、まともだった。
今ここにいる意味も、分からない私にとっては。
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