第4話殺人鬼とは何だ?
アソビが微睡に声をかけたのには理由があった。
他人を殺めてしまった罪悪感と、自分がこれまで失ってきたものに対する強い強い後悔、自責の念が彼女を完全に覆ってしまっている現在。
自分と同じく、血の匂いを漂わせた男の存在は、一つの希望だったのだ。
『もっとこの人を知りたい。』
それだけの思いで、彼女は微睡についていくことに決めた。
記憶から消すことのできない、許せない人間が一人だけいる。
その人を見つけて、殺すまでは。
絶対に、
死ねないのだから。
♦♢♦♢
「あんまり、つれないことばかり言わないでほしいですねー。貴方は私にとっては人生の一ページを飾るのにすごく貢献してくれた人ですから」
「……たった今、俺を殺そうとしてきた奴が! 一体何を言っている!!」
「やだなー。あんなの、ほんの挨拶でしょ? 三年前に戦った時の、十分の一くらいの威力しかなかったじゃないですか。まあ、もっとも」
死神は、軽く舌なめずりをして、
「早くあなたの死体を手に入れたいのには、違いないですけど……う、うん??」
悟の後ろに隠れる少女を見つけた死神は首をかしげる。
「その変なのは、一体何??」
案の定、死神の存在に、アソビは子供のように怯えていた。
「……」
「『血の残り香』がプンプンしますねー? それも、普通の殺人じゃない……
まるで自分から望んで、自分から選んで、自分の手で、数十、いや数百って人数を殺しているような」
「……」アソビは何も言わない。
「面白ーい、一体貴女は、その若さで。どうしたら、そんな香りをべったりとひっつけることができるんですかー?」
「黙れ」
悟は、死神の間延びした声に抵抗するように睨みつける。
「邪魔するんなら、まずはお前から息の根を止めてやる。……お前だって知っているだろう、俺の能力を」
言った悟の身に着けた手錠が、赤く染まりだした。
手錠から先の手から黒々とした煙が上りだしている。
「ええ、ええ! よく存じていますよー。毎晩毎晩夢に見るほどに。」
死神も、それに応えるように巨大な鎌を構える。
「そして、あなた自身もただでは済まないことも」
二人の間に静寂と緊張感が漂う。
ギリ、と歯ぎしりする。もうここで使わない手はない。
(万事休すか……!!)
今の彼には、不十分な形でしか能力を使えない。
因みに、この二人の戦いは過去に一つの都市の機能を消滅させた。
高位の能力者、実力者でもない限り、この二人の間に割って入るなど自殺行為だった。
けれど、その殺人鬼同士の命を懸けた緊張感は、
「……ずいぶん、仲がいいんですね」
ふと聞こえた少女の声に消された。
ブオンッッ!!!!!
鎌が振り下ろされる音。それは男ではなく、少女に向かう。
死神の行動は邪魔をされたことに対する不満、というより、
殺気を感じたことに対する反応だった。
「「!!」」
ガチン。
金属が止まる音。
「え?」
何が起こったか分からない死神は、振り下ろした鎌の先を見て、
「あ、、、、っはあ」
恍惚とした笑みを浮かべた。
鎌の先端が砕け散る。
少女には不似合いな軍用ナイフが、
大掛かりな鎌を砕いた。
「無駄なことだってわかってるの、ええそうよ生きるなんて無駄よ。私は悪くないもの。……ただ。私は私を殺そうとした人間のことを絶対に許さないってだけで、貴方みたいな人に私の時間をとられるわけにはいかないし」
アソビの瞳から光彩が消える。
「どうしてなの? 私がまるでイナイみたいに……」
右手に持ったナイフを漕他さらに強く握りしめる。
「もう何も考えたくない、遊びたい。馬鹿になりたい。」
私は、
ただ、
その手段を知っているだけ。
「狂うには」
私は何のために生まれてきたのか知っていきたいだけなのに、
その邪魔なんてするから。
貴方みたいな人は、私の人生から除外しとかないと。
「口角を上げるだけでいいんだもの。」
その笑った少女の表情は、
叫びを湛えているような、そんな。
歪んだ笑顔だった。
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