第2話出会い
容姿端麗というわけでもなくて、可愛げはあるつもりだったが不器用。
それでも性格も、学校での成績も、人間関係も普通に作ることができていた。
世間一般に求められるようなものは、何一つ不自由なく与えられて育っていた。
だが、そんな普通の幸せは、もう無くなってしまった。
ふとしたどうでもいい出来事でさえも、私にとっては一つの能力の引き金になる。
そして、そのたびに私は顔を合わせるんだ。
どこかおかしくなってしまった自我の隅に隠れる、
人殺しの自分と、
他人の血に濡れたナイフに鈍く映る情けない顔をした私を。
他人を怖がっていた自分と、
早く誰かを傷つけたいと思う自分が、交錯する。
そんな、ある意味当たり前の、普通の人間は、
今も、戦っている。
♦♢♦♢♢♦♢♦♢♦♢
「はあっ!……はぁ!」
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
「わた、、しは、やってないぃ!!」
饗場 遊は自分が作った殺人現場から逃げていた。
滂沱と流れる涙を抑えもせずに、自分がいる建物の出口を探す。
すごく暗いが、施設の概要はなんとなくわかった。
用途別に部屋が分かれていて、病院とは違う、何かのレクリエーション施設のような設計。
「誰か!! 誰か助けて!!!」
遊は叫んで助けを求めた。だが誰も何も答えない。
舗装されたコンクリートのような地面を右に左に曲がって、
時々見つかる階段を見ては、こけながら走って降りる。
もうかれこれ1時間はこんなことを続けているのに一向に外へとつながる場所へとつながらない。
次に降りた階は、少しばかり色彩が異なっていた。
全体的に、重苦しい空気が漂っている。
「誰か!! なんで誰もいないの!!??」
恐怖と孤独で、脳内が埋まる。
足を動かしすぎて、だんだんしびれてきた。
ジャリ、
「え?」
突如した鎖のような音に、驚きと好奇心をのぞかせながら、
遊は、音のした場所に歩み寄る。
だが、
「……え?」
それは、この時の彼女が、最も避けるべき行為だった。
明らかに不可思議な状況下で、ただでさえ不安な状況下で。
そんな鎖の音に近づくべきではなかった。
なぜなら、
「……ぐちゃぐちゃもちゃもちゃもちゃ……‥」
この場所は、
「何を、食べてるの? お兄さん」
彼の体がぴく、と反応する。
ギラギラとした瞳をこちらに向けながらも、咀嚼を止めない。
「あの、、聞こえて、、?」
「……血の匂いがする。」
無造作に食べていた何かを地面に捨てて、立ち上がる。
「お前、俺と同種か」
「同種?」遊がもう一歩近づこうとすると、
「近づくな」
静止を受けたが、
濡れた地面に足をとられてしまった。
「痛ッ」
ちょうどその時に、逃げるべきだった。
ヌメヌメとした嫌な感触の液体が足と腕にべたりとついた。
赤い、血?
「あなた、何を……?」
「……」男は何も言わない。
遊も何も言わなかった。
だって、
彼の向こうには、たくさんの、
たくさんの死体があったから。
―そうか。
この人は、
人間を、食べていたのか。
すごく不思議そうに、遊は聞く。
「なんで、あなたは、
そんな風に、人を殺しているの?」
呆れたような顔になった男は、
「……死体に怯えもしないガキに、そんなこと聞かれたくもねえがな」
その男は、黒いジャケットを羽織った中年ほどで、
ざんばらに切られた黒髪が、彼のかぶっている黒いフードから少しだけはみ出していた。
「ねえ、教えて。ここは、どこなの? それに、その人たち……」
死体の着ていたであろう衣装は、彼女が殺めたであろう人物の着ていたものと同じだ。
「こいつらは、死刑囚だ。」
「死刑囚?」
「あった途端に、急に襲い掛かってきたから殺した。」
ジャマダッタカラ コロシタ
ジブンニハ ソノケンリガアルカラ
気づかれないように、小さく、
顎に力が入る。
「ちょうどいい。この先に、この建物の出口がある。」
「どうしてわかるの」
「俺は風の流れを読めるんだ。……悪いことは言わねえから、来るといい。」
「……うん」
アソビは、自分のどす黒い感情を必死に隠してそう言った。
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