イノセント・クライ

黒犬

第1話生存確認

 気づいたときには、辺り一帯血まみれだった。


体いっぱいに、自分が殺したであろう相手の血液を浴びながら、

少女は笑っている。

だが、その笑顔にはまるで少女らしさなどというものはなく、

ただ純粋な、が写真のように少女の頭部に張り付いているように思われる。

それは、傍目に見る分には、とても人殺しの顔には見えず、

何も知らないような無垢さが、彼女の雰囲気から感じ取れる。

、少女は何故か、瞳から涙を流しながら、すでに息絶えている死体をナイフで刺し続けている。


その光景を、ガラスモニター越し若い研究者は観察していた。

「……なんてことだ。これが、検体、、『スマイル』」

今まで、色々な検体を見てきたが、この子は特に問題がありそうだ。

研究室で自分とともに観察をしていたアシュリーは、少女を見て嘆息した。


「特殊能力者の中に、こんな亜種がいたなんて、、論文でも読んだことがありません。パイロキネシスでもなく、サイコキネシスでもない。……ただ無自覚に能力だなんて……」


ここは『特別隔離棟』。

世界中から集めた特殊能力を持った『殺人鬼』を集める場所である。

ふむ、と自分の無精ひげを掌でさすりながら、勇ましい体格の元軍人の男は、

検体の報告書を眺める。

「年齢は不明、であるが外見から推定15か16歳ほど、性別は女、出身不明、能力発言時刻不明。そして、あの『事件』の生き残り。……まだこんなのが隠れてたとはな」


「最初見つけたときには、隊員が不審がるほど怯えていたそうですけどね。

まるで、、」

「まるで?」

元軍人のケリーは、アシュリーに聞き返す。


横目に、正気に戻った少女が、自分のやったことに、

泣き叫んでいる光景を見て、


見えたそうです。自分の後ろに、

たくさんの惨殺体があるままで。すごく、不思議な光景だった、とも。」


そう少女に、人殺しを実行させた冷酷な研究者たちは、

同じように冷酷な瞳で、少女のことを見ていた。

「……まあ、いい。我々の研究の益になれば、な。

危険性があると言えども、まだガキだ。もしかするとまだ何か隠しているのかもしれない。ゆめゆめ観察を怠るな。いいな?」


「「分かりました」」


彼らが着る、『組織』の紋章のついたスーツをなびかせながら、

研究員たちは了解した。


 見させてもらおう。……『絶望世代』の秘密を


そう胸中で呟いた研究員、ライカは、

自らの獣のような爪をもった拳をゴキゴキと鳴らした。






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