第6話 冷たいメイドとしがない執事
「というわけで、今回はカレーを作ります。準備はいいですか?
「その前にこの材料についての説明が欲しいです」
「?カレーにドラゴンフルーツや柿の種は必須でしょう?」
「まったく必要ない上にその微妙なチョイスはなんだ⁉」
程なくして執事の初仕事として
なんて言うと氷崎さんは少しむすっとして頬を膨らませる。
「しょうがないじゃないですか…。この前までいた料理人が辞めてしまったのですから…」
「それで今までどうやってご飯とか出してたんですか…」
「無論、出前に決まっているでしょう」
「なんでちょっと誇らしげなんですか」
出前って…そんな誇れるようなものじゃないだろ。なんでちょっとどや顔なんだよ。
氷崎さんのあまりに壊滅的な料理スキルに呆れていてもしょうがないと思い、俺が率先して動くことにした。
材料の下準備から、味付けまで、手際よく調理を進めていく。
「驚きました…。本当に料理ができるのですね」
「まあ…両親が死んじまってから、家事とか全部俺がやらなきゃいけなくて。このくらいなら、朝飯前ですよ」
「まあ私も本当の実力を出せばこれよりもっと出来ますけど」
「じゃあ氷崎さん、このニンジンちょっと切ってみてくださいよ」
「今回は乙部さんに譲りますので結構です」
…氷崎さんが本当の実力を出すときが楽しみだ。
そんな事があった後、程なくしてカレーを問題なく作り終えることが出来た。
うん、我ながらいい出来だと思う。今回隠し味として赤ワインを入れてみたが、爽やかさと酸味が出て、とても引き締まった味になった。水と赤ワインを6:4くらい(好みによります)の比率で入れると美味しくなる。
「よし、これでいいかな。氷崎さん、一応味見お願いできますか?」
「いいですよ、では…失礼して…」
と言いながら耳にかかった髪を手でかき上げ、カレーを一口食べる。
…忘れてたけどこの人普通に美人なんだよな…。単純な容姿だけで感想を言うなら今まであった人の中で一番かもしれない、なんてことを思うくらいに美人だ。
「美味しいですね、これならお嬢様も満足すると思いますよ」
「ならよかったです。じゃ、さっそく運びましょう」
珍しく氷崎さんが罵倒しないのが少し驚きだ。まだ少ししか話していないが一つ分かったことがある。この人は人がしっかりと作ったものや頑張ったことには、正当な評価を下してくれる、しっかりした人なんだなということが。
カレーの味見も済み、綾乃達にさっそくカレーを出してみた。
妹と氷崎さん以外に料理を出したことがないので、ちょっと緊張するな…。さて、皆の反応は…。
「ん~!これは美味しいねぇ~」
「もぐもぐ…兄さんの料理やっぱり美味しい!」
「…!優さん!美味しいです!」
よかった。正直皆の口に合うか不安だったけど、好評のようだ。
ふー…っと肩の荷を下ろし、自分もカレーを食べる。
「本当に美味しいです!さすが氷崎さんと優さんです!」
「このようなものならいつでもご用意いたしますよ」
と言って氷崎さんは少し得意げな顔をした。
…恵ちゃん。本当は俺がほとんど作ったんだよ。なんて口が裂けても言えない俺であった。
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