VOL.6

 俺達はフェンスを押しのけ、中に入った。

 

『おい』

 ジョージが俺の方を見ずに周囲に目をやってから声をかけた。


『気づいたかい?旦那』


『ああ』


 俺は答えた。確かに俺たちの周りには生い茂った木の陰、そして建物のあちこちにカメラが据え付けられている。


 すると、俺の顔の脇を何かがかすめた。


 頬を触ると、斜めに赤いミミズ腫れが出来ており、薄く血が流れている。


 M1917を懐から引っこ抜き、辺りを見回すと、少し離れた木の上で、男がライフルを構えていた。


『!』


 ジョージはまようことなく、スリングを手にし、思い切りゴムを引っ張り、パチンコ玉を放つ。


 空気を切って玉が飛び、ライフル男のこめかみを捕らえた。


 男はライフルを落とし、さながらサム・ペキンパーの映画の如く、スローモーションで木から落ち、地面に鈍い音を立てた。


 それを合図にしたのか、あちこちから銃声が聞こえ、俺達二人に集中砲火を浴びせてきた。


 集中砲火・・・・てぇのは適当じゃないな。確かに映画やテレビドラマで聞くような、矢鱈やたらにデフォルメされた音じゃない。花火が弾けているといったって、誰も疑いやしないだろう。


 しかし俺だって一応はプロの端くれだ。火薬の音かそうでないかくらいは聞き分けが出来る。


 でも、どっちみち危ないには違いない。


『散るぜ?』俺が言うと、


『おう!』ジョージは答え、ぱっと二手に分かれた。

 

 銃声が二手に分かれた。


 ジョージは立て続けにスリングで二人を片付けた。パチンコだって馬鹿にしたもんじゃない。


 俺は相手を十分に引き付け、同じように銃声の方向に二連射した。

 

 当たったかどうかは定かじゃない。


『援護を頼む』


『何だい。いいところだけはさらっていくのかよ?』


『主役ってのは、いつも格好いいものさ』


 俺はそう言って、そのまま走った。


 あちこちからまだカメラが狙っている。


 構わずに建物の中に入った。


 元病院だったとはいえ、そこにあったのはかび臭さと猥褻ワイセツ な落書き、それに散乱した器物だった。


 俺は舌打ちをした。


 ご丁寧なことだ。


 こんなところにも壁、廊下の天井、あちこちに小型のカメラがこっちを狙っていた。


 そこに表示板があった。


『地下室』


 という赤い文字で書かれた看板が、壁から半分落ちかかっていた。


 下の方から何か匂いがする。


 さっきのかび臭さとは別のものだ。


 俺は銃を構えなおし、足音を忍ばせながら、ゆっくりと階段を下って行った。


 俺は壁に張り付いて、頭だけを覗かせる。


 廊下があった。


 廊下には左右に扉が5つ、そのうちの4つは灯りが灯っておらず、一か所だけは小窓から灯りが漏れていて、ドアの前には迷彩服を着た、痩せた若い男がM4自動小銃を構えて立っていた。


『おい!』俺はいきなり廊下から飛び出す。


 男はびくっとしながらも、銃口をこちらに向けた。


 構わず、俺は一発だけ撃った。


 左の太股に命中し、男はもんどりうって倒れた。


 俺は男の側に駆け寄る。


『声を立てるな・・・・といっても無理か・・・・だったらうなずくだけでいい。この中にいるのは加納俊太と浅川ルイだな?』


 俺の言葉に男は苦しそうに顔をゆがめて頷いた。




 



 

 




 

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