VOL.5


 あの後俺はまだ地元に住んでいる彼女の中学時代の同級生の元を訪ねて色々と話を聞いた。


 その中の一人・・・・女性だったが・・・・が、二~三日前に二人の姿を『見かけた』という。


 彼女の話によれば、市内から南西に10キロほど行ったところに、50年程前に建てられたが、その後経営難から閉鎖、放置されたままになっている廃病院がある。


 付近では幽霊が出るとか何とか、根拠のない噂がばらまかれて、時々若者が出入りしているのだが、そこで何故かそして加納俊太、更には数名の武装した男達を見かけたというのだ。


 この辺りは何度か史跡にして保存しようという話も出たらしいが、予算の関係その他の理由で立ち消えになり、放置されたままになっているという。


 普通はそんな場所で武器を持った胡散臭い連中がいれば、警察が何らかの対策を打つところだろうが、それすらも為された形跡がない。


 念のため、複数の市民に聞いてみたが、程度の差はあっても、やはり変な連中が出入りしているという事実に、どうやら間違いはないようだ。


(こりゃあ、自分の目で確かめてみるしかないな)


 俺は思った。


 10キロといえば、俺の足なら歩いたって1時間もあれば軽い。


 伊達に空挺で百キロ行軍したわけじゃないのだ。


『旦那、どちらまで?』


 俺が歩き出そうとした時、シルバーグレーのトヨタの4WDが停まった。運転席のウィンドが上がり、見慣れた顔が人懐こそうに笑いながら覗かせた。


 メンソールの匂いが漂う。


『ご苦労さん、って、挨拶しなかったっけな』


『10キロも歩けるのかい?』


『俺を誰だと思ってる?せてもれても・・・・』


『空挺だろ?だが、たまには他人ひとの好意は素直に受けちゃどうだい?』


無料ただより高いはない、ってな』


『だったら払ってくれ・・・・』


 俺は何も言わず、助手席を回って乗りこんだ。


『しかしお前さんは素人だ。ヤバい目に遭わすわけにもゆかん』


 ジョージは後部座席に手を回すと、暫くごそごそやっていたが、スリング・ショットを持ち出してきた。


『銃ほどじゃないが、5メートル以内だったら、まず的は外さないぜ。危険手当とは言わない。せいぜい足代の倍増しってとこでどうだい?』


『出してくれ・・・・』


 俺が苦笑いすると、彼はまた片目をつぶって俺に合図した。


 は、相変わらず俺の後を付けてくる。



 車はモノの10分で『廃病院』の入口までたどり着いた。


 仰々しい看板が幾つも立てられ、鉄柵が二重に周囲を覆っている向こうに、雑草が生い茂った中に、ところどころ壁が剥がれ落ちた建物が見える。


 見ると、鉄柵の一部の鎖が外され、明らかに誰かが入った形跡があった。


 柵の向こうには一台のワゴン車が停まっている。


 俺は車内でM1917の弾倉レンコンを開け、弾丸で満腹にする。


『こいつは変だぜ』

 

 ジョージは言った。


 言われるまでもない。


 男と女が駆け落ちをしたのに、わざわざこんな町はずれの辺鄙へんぴで、妙な噂が流れている場所に隠れるだろうか?


 しかし、用心するに越したことはない。


『行くぜ?』


 俺は言った。


『おう』


 ジョージは答える。俺達はゆっくりと武器を構え、車から降りた。



 



 




 

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