VOL.4

 翌日、俺はジョージの運転で埼玉県の秩父市に出向いた。


 流石に彼のドライビングテクニックである。


 普通なら2時間は楽にかかるところを、約1時間で到着した。


 土地持ちと言う噂を聞いていたから、さぞかし豪壮なお屋敷を想像していたのだが、なんてことはない。普通の民家だった。


 浅川家は、現在のところルイの母親しかいなかった。


 父親は2年ほど前に病死したとかで、母親がたった一人で家を守っているそうだ。


 彼女の話によれば、ルイは高校を卒業して東京に行くまで、ここで暮らしていた。

 子供の頃から美人で目立つ方だったとかで、いつも複数の取り巻きに囲まれていたという。

 しかし、上京をすると、殆どこちらには帰ってこなかったという。


 それがほんの数か月前、急に顔を見せた。

 何でも『もうすぐ私も、もっと有名になれる。そうしたら母さんにも楽をしてあげられるから』と嬉しそうに語っていた


 しかしそれ以後は、ぱったりと音沙汰が絶えてしまった。


 俺は良く彼女の様子を観察したが、決してウソをついているとは思えない。しかし・・・・何となくおかしい。


 彼女は明らかに何かを隠しているようだった。


 俺はふと、座敷の傍らに目をやった。


 骨董品と思える箪笥たんすの上に幾つか箱があり、その中の一つに丸い穴が開いているのに気づいた。


 俺はさり気ない風を装って、


『小学校でも中学校でも、何でも構わない。卒業アルバムがあったら貸しては貰えないか』


 そう頼むと、彼女はちょっと待ってくれと言って奥に引っ込み、アルバムを二冊持って戻って来た。


『小学校時代のは見つからなかったけど、中学と高校のはありました』


 俺はそのうち、高校のアルバムを借り、住所録の頁を繰り、小型カメラで写真を撮った。


 礼を言ってそれを返すと、


『あの子、どこに行ったんでしょうね?』


 母親がわざとらしく、後ろを気にしながら呟いた。


『さあ、私にもそれは分かりません。ではこれで』


 俺はそういうと、家を出た。

 

 車に戻ると、待っていたジョージは、ラッキーストライクのメンソールをふかしながら、カーステレオから流れる『ムーン・リヴァー』に耳を傾けていた。


『凄い匂いだな』


『俺の車だ。何をしようと勝手だろ?』


 そう言ってから、サイドブレーキのすぐ手前にあるボトルスタンドに置いてあるスチールの灰皿にねじ込み、新しいのに火を点けた。


『・・・・付けられてるぜ。知ってたかい?』


『ああ』


『あんたも同じことの繰り返しだな。前にもこんなことがあったぜ。まるで針が飛んでるアナログレコードだ』


『探偵の仕事ってのはそんなもんさ。つけたり、つけられたり・・・・それで喰ってるんだ。贅沢は言えんさ』


『大丈夫かね?』


 俺は黙ってポケットからクリップで止めた一万円札を数枚、彼に渡した。


『いつもと同じと言いたいところだが、多少を付けて置いた』


 彼はそれを受け取りながら、


『後は一人でやるつもりかね?』と、驚いたような声を発した。


『元々そういう約束だったろ?お前さんはを売るだけってな』


『まあ、せいぜいきをつけるこったな・・・・御用の節はまたどうぞ』


 俺がドアを閉めると、彼は車をUターンさせて、そのまま去っていった。



 俺は後ろを見る。


 確かに100メートルほど後方に、1台の黒っぽいワゴン車が停まって、こっちを見ていた。


 どうやらエンジンがかかっているらしい。


 俺は知らぬふりを決め込んで、シナモンスティックを取り出すと、口にくわえて空を仰いだ。


 夏の太陽が照り付けている。




 

 


 

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