VOL.2

『盗んだ?』


 彼女はそこでまた唇を噛んだ。


『というと、この加納俊太が彼女を・・・・』


『違うわ、逆よ。彼女・・・・浅川ルイが俊太を盗んだの!』


 彼女は思い切り卓子テーブルを拳で叩いた。


 グラスが派手に踊った。


 彼女は興奮したまま、一杯目のコーラを飲み干し、二杯目を要求した。


 仕方ない。俺は残り三本になっている内の一本の栓を抜き、彼女の前に置いた。


 彼女は『客に対するサービスがなってない』とか、ぶつくさ言いながらも、瓶の中身を半分ほど、グラスに注ぎこんだ。


『で、この浅川ルイって、一体何者なんです?』


 浅川ルイは、某芸能プロダクションがリキを入れて売り出している、言わば新鋭アイドルというわけだ。


 ただ可愛いばかりではない。


 歌、ダンス、そして演技も、まあ今流の言葉で表現するなら『イケてる』部類に入るのだ。


 しかし・・・・問題が一つだけある。


 それは俊太とルイの所属している事務所が、ライバル関係にあるという事だ。


 そこへもってきて、或る問題が持ち上がった。


 芸能人のゴシップを立て続けにすっぱ抜いていることで知られている『週刊タイムズ』が、この二人の密会現場を写真入りで報道したのである。


 敵対する事務所に所属するタレント同士かが付き合うというのは、業界ではご法度だというのは、流石に芸能オンチの俺でも知っている。


 木滑女史は早速俊太に事の事実を確認した。


 彼女は勿論『ノー』という答えが返ってくるのを期待していたのだが、

 返事は、


 『付き合ってます』ときた。


 ルイの所属している事務所も彼女を問いただしたところ、帰って来たのは、


『はい、本当です』だった。



 こうなればもう放っておくわけにもゆかない。


 どちらもおどすわ、すかすわで何とか別れさせようとしていた。


 そんな矢先、二人揃って雲隠れを決め込んだ。


 要するに『恋の道行き』というわけである。


『人の恋路を邪魔する奴は、犬に喰われて・・・・』俺はコーラをぐっとやり、エアコンの温度を一度下げて呟いた。


『え?』


『いや、なんでもありません』


『・・・・兎に角二人の行方を探して頂戴、』女史は目を吊り上げて、さっきと同じ言葉を繰り返した。


『さっきお渡しした契約書にも記してありますが、私は結婚と離婚、に関わる調査は原則としてお断りしてるんですがね・・・・』


『貴方の都合なんかどうだっていいの!とにかく探して頂戴!何遍同じことをいわせるのよ!』

 

 何だかイライラのボルテージが随分上がっているようだ。


『犯罪に発展するようなことはないでしょうね?』


『何よ?何が言いたいの?私たちが俊太とルイに暴力をふるうとでも思っているの?』


『当然、そこまで疑いたくもなりますよ。犯罪の手助けもできませんから』


『馬鹿馬鹿しい。こっちだってこう見えても名の通った芸能プロダクションよ?法に触れるようなことをする筈ないじゃない!』


 そこで彼女は少し声のトーンを落とした。


『・・・・兎に角探して頂戴。とりあえずこれ、前金よ。見つけてくれたら、成功報酬として倍増しするわ』


 女史はそういってバッグからホルダーを取り出し、小切手を切って俺の前に突き付けた。


 


 


 


 


 



 


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