第5話

「迷惑をかけていたのなら、すまなかったね」

程なくして、車で来た残りのメンバーを迎えると真っ先に声をかけてきたのはアムールトラのフレンズだった。


 すっかり正気に戻っているようだが、ビーストってそんな簡単にフレンズに戻れるものなのか。


「あなた、喋れたんですか!?」

「私は、巨大セルリアンに飲み込まれてビースト化していただけだからね。元々はフレンズだからサンドスターを直接体内に注射されたらすぐ治ったよ」

ああ、そういうことか。


「あれ?イエイヌって、アムールトラと面識あったっけ?」

サーバルの疑問は、もっともだ。何しろこっちの世界では、二人は初対面なんだから。


「あ、アオイさんにお話を聞いていたんです」

分かってる。分かってるから、脇腹を肘でつつくな。


「――そうそう。ヘリの中で、今までの話をしていたんだ」

「そっか」


 俺の腹がきゅるるるっと鳴ったことで、かばんさんが食事を作ってくれることになった。その料理は、カレーライスだ。作っていた時からサーバルの様子が変だったが――。


「ちょっと、サーバル!?何、泣いてるのよ!!」

カレーを口にいれたサーバルは、涙をぽろぽろとこぼしていた。


「分からない。分からないけど、なんか懐かしい味がする」

そんなことを言いながらも、何皿もお替りするのはサーバルだなあ。


 だがやはり、このサーバルはかばんさんと旅をしていた子なのだろうか。


「アオイさん。私も、あなた達と一緒に付いて行ってもいいですか?」


 食事を済ませ、お風呂を借りると俺が上がるのを待ってたらしいイエイヌがそう話しかけてきた。


「俺は構わないけど、あそこを守るのが君の使命じゃないのか?」

「いえ。私の使命は、ヒトを守ることだけです。あの時は、ああでも言わないと踏ん切りがつかないかなって適当なことを言ってごまかしたんですよ」


 ケンカ別れをしたもののキュルルのために戻ってきたカラカルとの絆の深さを目の当たりにすることで、自分がやろうとしたことに罪悪感を覚えてしまったのだそうだ。


「それでも、一緒に来てほしいと言われたら付いて行くつもりではいました。子供に駆け引きなんて、持ち掛けるものではないですね」


 自分を守って傷だらけになった子に、怪我の心配も気持ちの確認もすることなくおうちにお帰りとただオウム返ししたキュルル。子供だから仕方ないの一言で済ませられるのか正直疑問だが、もう彼女の中で折り合いはついてるのだろう。


「分かった。そこまで言うなら一緒に行こう。でも、どこに行くかはまだ決めてないんだよね」


 アニメの順番ならホテルに行くべきなんだろうが、あそこに行っても無駄足になるのは分かっているしな。


「それなら、私に心当たりがあります。都市に行きましょう。このジャパリパークには、ヒトが住んでいた都市があるんです」


 そういうのを知っているならアニメ本編で言えよ。というのは野暮だろう。何しろ、原作のキュルルは他人のことに興味を示さずおうちのこともここじゃないと否定しただけで済ませたしな。


「分かった。かばんさんにその旨を伝えて来るよ」

「いえ。私も行きます」


 というわけで、俺とイエイヌはかばんさんにそのことを伝えに行くと椅子に座っているかばんさんの上にサーバルがしがみついていた。


「ええっと……。お邪魔でしたか?」

「気にしないで。それより、どうしたの?」

「明日、私たちを都市まで案内してもらえますか?」

「――都市か……。悪いことは言わないから辞めた方がいい」


 かばんさんによると、サーバルが記憶を失ったのはそこなのだそうだ。都市は、今ではジャングルのようになっており、大小様々なセルリアンがいるのだとか。


 かつて、サーバルは巨大なセルリアンに食べられたが救助しようにも他にもセルリアンがいて近づけず、かばんさんも食われそうになったが通りすがりの博士と助手に助けてもらったのだとか。


 こういうことをサーバルのいる前で話したということは、既に説明しているのだろう。実際、サーバルはその話に動揺しているそぶりはない。


「その都市に、俺のおうちがあるかもしれません。だから、それをこの目で確かめたいんです」

「危険は承知の上、ということ?それで、誰を連れていくつもり?」

「イエイヌちゃんとふたりで行こうと思っています。一度セルリアンに食べられたサーバルや、成り行きで付いて来たカラカルを巻き込むのはさすがに……」


 そこまで言うと、ドアが勢い良く開いた。そこにいたのは、カラカルだった。俺と一緒にお風呂に入る気でいたのに、シャワーから流れるお湯を見て逃げたと思っていたがどうやらどこかに隠れていたらしい。


「確かに最初は成り行きだったけど、私も行くわよ。途中で抜けるなんて、寝覚めが悪いし」


「いやいやいやいや。ドアの向こうで聞き耳立ててたなら聞いてただろ。俺達が行こうとしてるのは、サーバルとかばんさんのコンビでも歯が立たなかった場所だって」


 びしっ!!


「痛え!?」

カラカルが、無言でデコピンしてきた。


「あたしが、そんな場所に非力なあんたを送り出して知らん顔するようなフレンズに見えるわけ?あんたはもう、大切な仲間なのよ!!」


 正直、見くびってた。カラカルは、アニメではいつもぶつくさ文句を言ってるイメージしかなかったから、危ない場所に行こうと言ったら辞めるように言うか逃げ出すんじゃないかって思っていた。


 でも、それは違う。彼女はお決まりのセリフを吐くキャラクターじゃない。目の前で生きてる仲間フレンズなんだ。


 それって、俺のことを仲間と認めたってことでいいんだよな、カラカル。


 ばちん!俺は、自分の両頬を叩いた。カラカルがモノレールから俺を意図せず地面に下ろしたときにそう喜んだじゃないか、俺は。その気持ちすら忘れるつもりかよ。アニメ基準で考えるな。目の前にいるこの子カラカルに向き合うんだ。


「ごめん。今までうまくいきすぎてて、自分一人で何でもできる気になってた。これ以上、カラカルを巻き込んでいいのか分からなかったし。……さっき、シャワーからも逃げてたしね」

 

「そんなことだと思ってたわ。ばかね。――あのシャワーって奴と……火?とか言うの以外は何も怖くないわ」


「あと、船も怖いよね。カラカルは」


「サーバル!!」


 俺たちは顔を見合わせると、一斉に笑い声をあげた。そうだ。俺たちは、ひとつのチームなんだ。


「キュルルさん。あの時のサーバルは、全然弱いとかドジとか言われていた時のことだから単純な比較はできないと思うんだ。――よし、分かった。仲間想いな君が危険を承知でいこうと言っているんだ。ボクも、大人として全力でサポートするよ」


 都市でおうちが見つかろうが見つかるまいが、都市がキュルルにとっての天王山となるのだろう。皆で作戦を練ると、俺たちは一晩寝て英気を養うことにした。

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