第3話
海で出会ったカリフォルニアアシカとバンドウイルカに別れを告げ、俺とサーバルとカラカルは再びモノレールに乗っていた。海の中に魚がたくさんいたことや、アシカが「特別なごほうび」が欲しいと言ってきたぐらいで、並行世界要素はそれほどなかったな。
アニメではキュルルの思い付きに2人が乗っかる形だったが、こちらの世界ではサーバルがごほうびに納得のいってないアシカの様子に気付いていたり、そもそも「特別なごほうび」って何?と当のアシカたちと一緒になって考えたりしたから結構楽しかった。
「お客様に申し上げます。この先は、運行ができなくなっておりますので停車します。その後まもなく、降りられる場所まで後退させていただきます。お客様には、ご迷惑をおかけしますことをご容赦ください。繰り返します――」
海でのことを思い出していると、ラッキービーストからそんな車内連絡が語られゆっくりと停車した。安全管理がしっかり出ている様で何よりだ。窓から様子をのぞくとやはり線路が破壊され、残がいが地面に散らばっていた。
「うわあ!!ぴかぴかの道が、壊れてるよ!!」
「もう、進めないってこと!?」
俺のまねをして、サーバルとカラカルも窓から顔を出して驚きの声を上げた。うん、カラカル正解。
モノレールは後退し、降りられる場所……恐らくは点検用のターミナルなんだろうが、そこから降りることになった。「ここから降りてね」というラッキービーストが示した先は、らせん階段になっているから危なげなく下に降りられそうで一安心だ。
素手で懸垂下降しろとか、シャレになってないからな。
「ここを降りた先に、別のラッキービーストが待機してるからその子の指示に従ってね」
「ラッキーさんは、一緒に来てくれないの?」
「管轄が違うから無理だよ」
それじゃあ仕方ないか。俺は帽子を脱ぎ、サーバルとカラカルは招き猫ぐーをしながらここまで送ってくれたことに礼を言うと、ラッキービーストは「All the best for the bright future ahead of you. 良い旅を」と返してくれた。
って、何で英語?あなたの未来がうまくいきますように。って意味だよな、確か。ここは元々動物園っていう話だったし、雰囲気づくりだろうか。そんなことを考えていると、カラカルが俺の体をお姫様抱っこよろしく持ち上げたらしかった。
「うおあああっ!!?」
そして、そのまま地面にジャンプした。そうだよな。お前、ネコ科だものな。階段で降りる発想はないよな。
地面が近づいてくる間に、ひどく驚いた表情でハンドルをに握りながらこちらに向かってくる老人の顔が脳裏にフラッシュバックしたが、あれは車じゃないか。それって、つまり――。
「ごめん、アオイ。つい、
「あー……、うん。大丈夫」
それって、俺のことを仲間と認めたってことでいいんだよな、カラカル。海にいたときに、船の上で怖がる彼女に気を使っていたこともプラスに働いたのかも知れない。
「ここからは、僕が案内スルーヨ」
運転手のラッキービーストは海賊風の恰好だったが、そう言って現れた新しいラッキービーストはソンブレロ帽をかぶったメキシコを思わせるコーディネートのそれだった。
「君は、どこへ行きたいの?」
「僕は、おうちに帰りたいんだけど」
考えるより、先に口が動いていた。きっと、キュルルの意志だろう。
「おうち……おうち……検索中……検索中」
「アオイのおうちの場所、分かるの?」
「分かっターヨ!おうちを探しているゲストを、案内する施設がアルーヨ。そこに案内スルーネ!」
おうちを探しているゲストを案内する施設か……。それって――。
「ここダーヨ」
「ここが、アオイちゃんのおうち?」
ラッキービーストに案内されたその施設には、窓に大きくわすれものセンターと書かれていた。そりゃあ、そうだ。おうちを探してる子供にスタッフが案内する施設と言えば、迷子を案内する場所に決まっている。
「違うけど、せっかく案内してくれたんだから中に入ってみよう」
俺の予想が正しければ、ここにオオセンザンコウとオオアルマジロがいるはずだ。
「どちら様ですか?」
「ご依頼ですか?」
うん。やっぱりいたね。
「俺は、アオイ。ヒトなんだけど、集落……ヒトのおうちがたくさんある場所を知らないかな?」
「「あなた、ヒトですか!?」」
彼女たちによると、とある依頼者にヒト探しを頼まれていたそうだ。彼女なら知っているのでは?ということで、彼女たちに付いて行くことになった。
彼女らは初めヒトの卵の見張りをしていたらしいのだが、その卵が割れてヒトの雛がかえったらしいということで匂いを頼りに道をたどっていたそうだ。
だが、竹林までいったものの竹や潮風の匂いで分からなくなったので、ここにとどまって尋ねてくるフレンズ達から情報を集めていたのだとか。
なるほどね。言うまでもなく、その卵に入っていたのは俺というかキュルル……いや、ここは俺でいいのか?――まあいいや。そこは、重要じゃない。
俺が入っていたカプセルは彼女たちからみれば卵であり、そこから出た俺は雛と言ってもいいだろう。理屈ではわかるが、ヒトの卵っていうのは変な感じだな。
「卵ってことは、やっぱりあそこがあんたの巣だったんじゃないの?」
「違うよ!!」
おおう。急に叫ぶのはやめてくれないか、キュルル。
そんな話をしながら歩いていると、目的の場所に着いた。動物の顔をモチーフにしたであろうコテージが数棟ある場所だ。オオセンザンコウが依頼人を呼んでくると言ってそのうちの一つに入っていき、連れて来たのはやはりイエイヌだった。
「あなた、ヒトですね」
彼女はそう言って俺に飛びつくと、「懐かしいなあ。この匂い」と耳元でささやいた。そして、オオセンザンコウとオオアルマジロのふたりに礼を言うとジャパリスティックというお菓子をあげ、彼女らは「また何かあったら言ってね」と去っていったのだった。
「イエイヌさん。先ず、最初から説明してくれないかな?どうして、君がヒトの卵を知ってたのかを」
彼女の家に案内され、何でも命令してくださいと言われたので早速そう聞いてみることにした。
「はい。ある日、お茶に使うお水をくみに行ったら偶然懐かしい匂いのようなものがしまして。匂いをたどってみたら、パークガイドのかばんというヒトに会ったんです」
イエイヌの話によると、かばんさんは
「何よ、そのかばんって奴!!下手したら、アオイが生まれてこなかったってこと!?」
「カラカル。その、かばんさんの判断は正しいよ。出てきたのが俺じゃなくて、大量のセルリアンだったらどうするのさ?」
「それは、まあ……」
かばんさんはそれを受けて卵の管理をイエイヌに一任したが、彼女はご主人様を待つという使命があるらしい。そこで、あのふたりに卵の見張りを依頼したということだそうだ。
「ありがとう。そこから出てきたのは、俺だ。君がいなかったら、俺は誰にも出会えなかった」
そう言って彼女に向かって手を伸ばして握手を求めると、イエイヌは俺の手をじっと見て手の向きを
「私には、こっちの方がしっくりきます。久々にできた。懐かしいなあ」
イエイヌはそう言うと、フリスビーを投げて欲しいとそれを渡してきた。まあ、質問ばかりではなんだし、彼女に少し付き合うか。
カラカルには「私はいい」と断られたものの、サーバルと一緒に3人でフリスビー遊びをし、いい汗をかいた頃合いでコテージに戻るとイエイヌがお茶を淹れてくれた。
「うん。うまい」
「おいしーい」
「ほ、ほんと?」
カラカルは、さっきから警戒してばかりだな。まあ、そういうフレンズだから仕方ないんだけど、彼女は彼女なりにイエイヌに気を使っているのか恐る恐る匂いを嗅いだうえでゆっくりとティーカップに口を付けた。
「イエイヌさん。俺は、自分のおうちを探しているんだけど、何か手掛かりを知らないかな?」
「手掛かり……ですか?うーん。役に立つかどうかは、分かりませんが」
そう言って、イエイヌは金庫のようなところから数枚の紙の束を取り出して見せてくれた。最終回で彼女が見ていた手紙だ。
だが、これ自体に意味はない。あくまでも、これは今はどこにもいないスタッフへの感謝の手紙に過ぎないからだ。本題は絵にある。
一番下にあった4つ折りの紙を広げると、やはりそこに描かれていたのはヒトとフレンズが一緒に微笑んでいる絵だ。これについて聞こうとした瞬間、俺の鼻を潮風がくすぐった。
まもなく、俺はイエイヌに突き飛ばされ俺がさっきまでいたところにイエイヌがおり、彼女の体を緑色の何かが覆っていた。
「アオイちゃん!!ケガはない!?」
「大丈夫。イエイヌさんは……」
「あの紙?ってやつから、セルリアンが出たのよ。イエイヌは、それからアオイをかばって……」
サーバルはイエイヌを助けるため彼女ごとセルリアンに攻撃を仕掛けたものの、空いている窓から逃げられてしまった。
「このままじゃ、イエイヌちゃんが!?……助けに行こう!!」
「そうだね」
「セルリアンに、かわすなんて頭があったのね……。待って、私も行く!」
外に出るも、どこに行ったかは分からない。どうしようかと顔を見合せたその時、「あおーん!!」と犬の遠吠えのような声が聞こえた。それを頼りに後を追いかけるサーバルとカラカルのふたりに付いて行くと、果たしてそこにイエイヌがいた。
黒いオーラをまとい、牙をむいたイエイヌが俺に向かって突進してきたのだ。
「このっ!!」
カラカルが身を挺して俺を守ろうとしたが、あっさりと弾き飛ばされてしまった。
ビースト。そんな言葉が頭をよぎる。ひょっとしたらイエイヌは、まだ形が定まっていなかったセルリアンに取り込まれてビースト化したのかも知れない。
カラカルに次いで俺も、ビースト化したのであろうイエイヌに吹き飛ばされて地面を転がった。痛え。あの時と違って、血こそ出ていないが……。そうか、やはり俺はあの時――。
イエイヌはこちらに牙をむきながら「グルルルル」とうなり声をあげているが、サーバルがビーストを見据えながら目を光らせると、段々彼女の目が正気のそれに戻ってきた。
「キュ……ルル……」
キュルル?イエイヌが、何故その名前を知っているんだ。その疑問が発展する間もなく辺りにきーんっとしたハウリングが起こり、サーバルとイエイヌはほぼ同時に気を失ったのだった。
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