第2話
サーバルとカラカルと一緒にモノレールには乗れた俺は、竹林に降りることにした。俺はというか、サーバルがこの絵と似てる場所じゃないかと言い出して降りた形だけど原作通りだから別にいいだろう。
「これ。登りにくそうな木だね」
「爪も研ぎにくそう」
「これは、竹っていうんだよ」
そんなことを言いながら竹林の中に入っていくと、サーバルとカラカルが何か物音に気付いたようだった。
「これ、誰かの寝息じゃない?探して、アオイちゃんのおうちについて聞いて来るよ!」
「待ちなさい!私たちも――って、もういなくなっちゃったわ。セルリアンじゃないのは分かるけど、もう少し警戒しなさいよ」
「あはは。そういうフレンズじゃ仕方ないんじゃないかな」
「まあね」
カラカルの耳を頼りに、俺たちはサーバルと寝ているジャイアントパンダの所にたどり着いた。
「取りあえず起こそうか」
「さすがに悪くないかな」
「ジャイアントパンダちゃんは、寝起きは機嫌が悪いことが多いのでやめた方がいいですよ」
後ろから見知らぬフレンズが会話に混じって来たので、俺たちは「うあっ!?」と思わず悲鳴を上げてしまった。よく見なくても、レッサーパンダだ。でも、何でこいつ竹をバットよろしく振りかぶってるの?
「んー?だあれえ?」
そして、ジャイアントパンダも俺たちの悲鳴を聞いてか起き上がってきた。
「俺は、アオイ。おうちを探してるんだ」
「私は、サーバルキャットのサーバルだよ。そのお手伝いをしてるの。そして、こっちはカラカル」
レッサーパンダは、そうなんですかと言って持っていた一本の竹を背負っているかごに入れると自己紹介をした。何でも、彼女はセルリアンが来たのかと思って竹を武器にしようとしていたらしい。ああ、カラカルと同じパターンね。
「そっかあ。じゃあ、お休みい」
「ちょっ……、寝ないで!聞きたいことがあるから!」
だが、カラカルの言葉も空しくジャイアントパンダはまどろみの奥へと入り込んだようだった。
「あー、もう!ゆすって起こそうかしら」
「辞めた方がいいですよ。こう見えて、ジャイアントパンダちゃんは怒ると怖いし」
「そうは見えないけど……まあ知らない可能性もあるしなあ」
何の話だろうと要領を得ない表情のレッサーパンダに、
「知ってるの?レッサーパンダ」
「知っているというか……。その、場所を変えませんか?」
そう言うと、レッサーパンダはジャイアントパンダの方をちらりと見た。彼女には、聞かれたくない話なんだろうか。
「あそこ、見えますか?」
「ごめん。少し、休ませて」
「アオイちゃんは、さすがヒトだね。はあはあしないもん」
竹林を上から見渡せる丘まで来ると、さすがにネコ科のふたりはへばっているようだった。
「さすがヒトって……はあはあ……レッサーパンダも、平気そうじゃない」
「私は慣れてるので大丈夫ですけど、ヒトって疲れにくいんでしょうか?」
「そうかもね」
ヒトは、ネコ科より大型何だからそれなりに体力はあるよ。なんて、ヒト化した彼女らに言ったところで意味不明だし黙っておこう。
「それより、あそこ。何だか開けてるね」
「はい。そこに、さっきの絵に描かれていたものがあったんです。でも、ジャイアントパンダちゃんがそれに乗ったら壊れてしまって……。なので、危ないから壊して片づけたんです。私、あれがあなたたちの大事なものだなんて知らなくて……ごめんなさい!!」
そう言って、レッサーパンダは勢いよく頭を下げたが。いやいやいや。そんな理由じゃ、怒れないって。無駄に歩かされた挙句に、場所は知らないけど適当に歩いてたら見つかるかなとかだったなら怒らないとは言えないけどさ。
でも、そうだよな。レッサーパンダとジャイアントパンダは友達なんだからよく一緒に遊んでいるはずだし、片方が知っててもう片方が知らないのは不自然だわ。
「大丈夫、気にしないで。そういうことなら仕方ないよ」
「それより、さっさと下りない?なんか、知らない匂いがするのよね。ここ」
知らない匂い?カラカルが言うには、セルリアンではないけどレールが伸びている方向からかいだことのない匂いがするんだとか。
「ああ、それはきっと潮の香りですよ。向こうに海というものがあって、その匂いがここまで流れてくるんです」
「それって、これ?」
そう言って、レッサーパンダに海の絵を見せると「そうですそうです。こんな風に水がたくさんあるところなんですよ」と返ってきた。よし、これでまたモノレールに乗る理由ができたな。
ブランコを直している最中、それに乗る人間の女の子が脳裏を一瞬フラッシュバックしたがあれは何なのだろう。いや、分からないことは後回しだ。
「どうかしたんですか?アオイさん」
「ううん。何でもないよ。レッサーパンダさんって、木登り上手みたいだね。それに、手先も器用だし」
もやい結びを教えたらきちんと再現できるところを見ると、それなりに賢そうだ。
「あ、ありがとうございます」
何とかごまかせたらしく、レッサーパンダは普通に照れているようだった。うん、可愛い。
遊具の組み立てが完了した辺りで、竹が入ったかごを背負ったジャイアントパンダがやって来た。丘に行く前にレッサーパンダが、寝ている彼女のそばにかごを置いたときより竹の本数が減っているのは食ったからだろうか。
「え?どうして、またこれがあるの?」
「ジャイアントパンダちゃん、今度は大丈夫だよ。皆でしっかり組み立てたから」
「でも……」
そりゃあ、不安だよな。彼女の前で、安全アピールする必要があるだろう。と思っていると、「それえ!」とサーバルが滑り台で滑ってくれた。きしむ様子もないし、大丈夫そうだ。
「じゃあ、次はカラカルだね。ブランコに乗ってみてよ。背中押すから」
「押すって、どういうことよ!?」
そう言いつつも、しっかりブランコに乗ってくれるカラカルもジャイアントパンダの不安を払しょくしたいんだなと優しい気持ちになった。まあ、背中は普通に押すけどな。
カラカルの背中を押し、ブランコをこいでジャンプすると着地をミスしたらしく彼女は顔から水たまりにダイブしてしまった。
「ごめん!カラカル、怪我はない?」
そう言えば、こんなシーンあったわ。すっかり忘れてた。
「ぺっぺっ……怪我はないけど、口に泥が入ったわ」
「それならよかったあ」
「よくないから!」
カラカルに、あんたも何かやりなさいと言われたのでターザンロープで遊んでみた。うん、大丈夫そうだ。
「何で私だけ……」
「これ、なじむう」
皆が遊んでる様子を見て、ジャイアントパンダは安心したのかタイヤ型のブランコに乗ってくつろいでいた。さすが、絵になる。
「それにしても、いい友達なのね。あんたとジャイアントパンダって」
「私とジャイアントパンダちゃんが?――どうでしょう。私なんか、迷惑かけてばかりで……」
「そんなことないよ」
まどろんでたとばかり思っていたジャイアントパンダが謙遜するレッサーパンダの言葉を遮るようにそう言った。
「レッサーパンダちゃんはいい竹を見つけてくれるし、寝てばかりいる私とずっとそばにいてくれる。かけがえのない友達だよ」
そう言って、彼女はかごから一本の竹を引き抜くと一本かじって見せた。
「――うん。ありがとう、ジャイアントパンダちゃん」
なんかいいな、こういう雰囲気。だが、そんな空気を一変するように小型ではあるものの空飛ぶセルリアンの群れが一斉に襲ってきた。俺たちをではなく、遊具をだ。
「え?何で私たちじゃなくて、遊び道具を?」
「ほんと、どういうことなんだろう」
「ジャイアントパンダちゃんが楽しんでくれたものを……皆で、一緒に作ったものを壊さないでえ!!」
レッサーパンダがそう言ってセルリアンの群れに挑むも、素手では勝てないらしく急須っぽいやつの体当たりで吹き飛ばされてしまった。
「サーバル!カラカル!」
「そうだね!」
「分かってるわ!」
だが、彼女たちが挑むまでもなかった。ジャイアントパンダが竹を振ってレッサーパンダを攻撃したセルリアンを一撃で倒すと、怒りがこもった低い声を発したのだ。
「私の大事な友達を怪我させて、皆で作った遊び場を壊すなんて――。覚悟は、できてるんだろうなあ!?」
正に一瞬。大量にいたセルリアンがジャイアントパンダのフルスイングであっという間に雲散霧消したのだった。正直なところ、怖くないと言えば嘘になるな。
「戦いに疲れて、また眠っちゃったみたいね」
まあ。それは、ご愛敬ということで。
この後はジャイアントパンダを交えて皆で再び遊具を直し、仲良くなった記念にと絵を描いて渡したわけだけど彼女からヒトを探しているフレンズの話は出なかった。
イエイヌは、あの二人に依頼していないということだろうか。まあ、その方が平和かもしれないけどな。
それにしても、海か。海獣コンビのごほうび要求が怖いけど、正直スキューバダイビングはしたい。少し多めに、ジャパリまんを補給しておいた方がよさそうだ。
「次は、見つかるといいね。アオイちゃんのおうち」
「うん。ありがとう」
とにかく、自分の思うままに行動してみよう。そしたら、何かつかめるかもしれない。俺は、そんなことを考えながら進行方向にある海を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます