第6話 魔物退治
試験に合格した次の日、鏡夜くんに呼び出された。
「合格したから、はいこれ。」
鏡夜くんの手には、正式な闇祓いになるともらえる『闇祓い手帳』があった。
「うわー、やったー!」
黒皮でぴかぴかと光る手帳は、触るとつるつるとした手触りで、開くと私の顔写真が載っていた。
「それボタン押したら、写真からマップに切り替わるから。近くで魔物が出現したら、そのマップに表示されるからね。もう一回おすと、今何ポイントあるのかが分かる。」
「おぉ、本当だ。ちなみに鏡夜くんは今何ポイントなの?」
「あぁ、僕もまだこれくらいだよ。」
鏡夜くんの手帳のポイント画面を見ると、18という数字が浮かんでいた。
「こないだの黄色い首輪のオーガは3ポイントだ。」
「えっ、こないだの奴でも3ポイントだったの!?」
鏡夜くんは、魔物の首輪の色の違いについて詳しく説明してくれた。
それぞれの首輪の色に応じて、点数が入るらしい。点数は以下の通りだ。
魔物点数一覧
緑色…兵隊(1~5点)
蒼色…騎士(6~10点)
赤色…伯爵(10~20点)
金色…王 (20点以上)
「金色の王を倒したら、すごい点数がもらえるんだね。」
「あぁ、でも王クラスの魔物なんて一人で倒せる相手じゃない。王クラスが出現した場合、基本的にはプロの闇祓いが何十人がかりで倒すことになる。」
「そうなんだ。でも、倒したらみんな20点以上もらえるんじゃないの?」
「それならみんな、すぐ100点に到達して、夢を叶えたい放題じゃないか。そこまで神様は甘くないよ。共闘して魔物を倒した場合は、その人数で点数を分け合うんだ。特によく貢献した人は他の人よりも取り分は多くなるけどね。」
魔物を倒せばポイントがもらえる。100点に達したら、願いを一つ神様にかなえてもらえる。なんだかゲームみたいな話だ。
「今までに100点に達した人はいるの?」
気になったので、鏡夜くんに尋ねてみた。
「うん…。いるにはいるんだけど…。」
どうにもはっきりしない回答だった。
「えっ、どういうこと?」
「100点に達した人は、願い事を叶えてもらうか、叶えてもらわないでそのままにするか、どちらかを選べるんだよ。」
「そんなの、みんな願い事を叶えてもらうんじゃないの?」
「まぁ基本はそうなるのかな。だけど、願い事を叶えてもらう場合は、その人の闇祓いに関する記憶は消えてしまうんだ。その人の記憶はもちろん、周りの人からも、その人が闇祓いだったという記憶は消えてなくなるらしい。」
「えっ、それじゃあ…。」
闇祓いだったという記憶が、本人も、周囲の人からも消えるということは…。
「あぁ。願いを叶えてもらった人が、今どこでどうしているのか…。それは、誰にもわからないということだ。」
「なんだか、みんなの記憶からも消えるっていうのは、少し寂しい気がしちゃうね。」
「そうだね。だから、中には100点を超えても、そのまま闇祓いを続ける人だっている。まぁ100点を超えてる人なんて、僕もまだ会ったことはないけどね。」
100点を超えたら…私には到底できないと思うけれど、もし超えたら私はどうするのだろう。私と周りの人たちが、魔物に狙われずに平和に過ごせるなら、願いを叶えてもらうかもしれない。
「鏡夜くんは、100点を超えたらどうすの?」
「僕かい?僕はどうしても叶えたい願いがあるからね。それを叶えてもらうさ。」
「どうしても叶えたい願い事って?」
「それは…内緒だよ。神様にお願いごとをするときは、他の人には言わない方がいいっていうだろう?」
鏡夜くんは、私をからかうように笑った。
「え~っ、教えてよ!」
「ほらほら、特訓始めるよ。風の魔法だけは、まぁ一応は使えるけど、他の元素はからっきしなんだから。」
残りの夏休みの間も、私と鏡夜くんは時間があるとき一緒に特訓をした。私が鏡夜くんの願い事を尋ねた時、一瞬だけ少し暗い表情になった気がしたけど、その理由はこのときはまだわからなかった。
夏休みの最後の日、私は読書感想文の宿題に追われていた。
「なんでもっと計画的に宿題を終わらせないのっ!もう五年生でしょっ?」
夏休みが終わる二日前、お母さんに手伝ってもらいながら、なんとか自由研究を終わらせた。簡単にできる自由研究ならあれがいいと、お母さんはスーパーで紫キャベツを買ってきた。それを湯がいて煮汁をだし、酸性・アルカリ性を調べるという定番中の定番である。これでは自由研究の校内コンクールでの表彰は難しいだろう。
「もうちょっと工夫したのがいいなぁ。」
「文句言わない。あんたは早く読書感想文の本読み終わりなさい!」
お母さんが手伝ってくれたおかげで、残すは読書感想文さえ書き上げたら終わりだ。今の時刻は午後7時半。早めの夕飯を食べ終え、私は自室で7月に先生からもらった原稿用紙と睨めっこしていた。とはいっても、明日の始業式の準備はもう終えているし、そこまで焦ってはいなかった。
なぜなら感想文の下書きはお昼の間にすでに終えているのだ。最悪これを清書して明日提出すればいい。しかし、お母さんに見せると、「またあんたは話のあらすじばっかり書いて、もうちょっと想像力もって書けないの?」と言われたのが悔しくて、その書き直しを考えていた。
「うーん、だめだ。ちょっと休憩!」
リビングでお茶を飲んでからもう一度部屋に上がると、私のスマホが振動しているのに気づいた。ロックを解除すると、鏡夜くんからの着信だった。どうしたんだろう?
「はい、もしもし?」
「もしもし、まいか。闇祓い手帳見たかい?」
「いや、見てないけど…。」
「さっき近くで、魔物が発生したようだ。今すぐ外に出れるかい?」
「えっ、今から!?まだ夏休みの宿題が…。」
「夏休みの宿題よりも大事なことは、この世の中には山ほどあるんだよ。」
「うっ…、その通りだと思うけど…。」
確かに夏休みの宿題なんかよりも大事なことは、この世の中にはいくらでもあるだろう。でも、五年生の私にとっては、きちんと宿題を出して先生に怒られないことも、結構大事であることは分かってほしい。
「箒は家にあるかい?」
「一応、部屋に置いてあるけど。」
「っじゃあ、それに乗ってくるといい。中学校のグランド集合で。」
「…うん。わかった。今からいくね。」
壁に立てかけ合った箒を取り、窓を開いた。虫の鳴く音が大きくなって聞こえる。箒にまたがり、足が地面から浮かび上がるのを見た。すっと重力が消えていく感覚にも慣れてきた。そのまま窓から抜け出し、空を飛んで中学校の方向へと向かった。
「ごめんっ、今着いた。」
中学校の校門の前には、鏡夜くんがスマホをいじりながら待ってくれていた。白いシャツに、黒いマントを羽織り、手には白い手袋をはめていて、腰には長い剣のようなものをぶら下げている。いつもかけている眼鏡は無く、髪もいつもの黒髪ではなく、明るい銀色である。普段の姿に慣れてしまったけれど、初めて会ったときも同じような恰好だった。
「おぉ、まいも魔女の恰好になってる。」
私は以前に鏡夜くんにもらった魔女の三角帽子、お気に入りの黒いワンピース、茶色のブーツを身にまとい、腰には杖(音楽室の指揮棒)を括り付け、箒を担いでいた。
「えへへ…。ちょっと恥ずかしいけど。」
「いや、とてもよく似合っているよ。初の魔物退治がんばろうか。」
「うんっ!」
「それじゃあ早速中に入ろう。」
中学校に忍び込むのは、小学校に入った時よりも少し緊張した。体育館が解放の時に、お母さんと一緒にバレーボールをしに、何度か体育館の中には入ったことがあるだけだ。
「どうやら、魔物の反応は運動場の方かららしい。」
鏡夜くんが闇祓い手帳のマップを見ながら、教えてくれた。
運動場への階段を登りきると、小学校の二倍くらいはある大きな運動場へたどり着いた。その中央に、なにやら影が見える。
近づいてみると、それはツルのような鳥だった。でも色が違う。燃えるような朱色の羽毛を持ち、翼の先端は青に緑、黄色などの極採色に光っている。しかし、普通の鳥と決定的に違う部分があった。
「あっ、足が一本しかない。もしかして怪我しちゃったのかな…。」
私は足に怪我がないか確認しようと、その鮮やかな色の鳥に近づいた。
「危ないっ!」
朱色のツルに似た鳥は、“キェッー”と甲高い鳴き声を上げ、口から炎を噴き出した。
うかつに近づいた私はそれを避けることができなかった。しかし、炎が私に届く前に、鏡夜くんが黒いマントを広げて、私に覆いかぶさるようにして守ってくれた。彼の黒いコートは耐熱性に優れているらしい。
「あっ、ありがとう。」
鏡夜くんは、鳥が出した炎をマントで防ぎきると、マントを翻して子どもを先生が注意するような口調で言った。
「うかつに魔物に近づいちゃ駄目だよ。」
「ご、ごめんなさい…。」
「あの鳥は、畢方と言って中国の妖怪だ。口から火を吐くけど、ある程度距離さえとっていたら危険性は少ないよ。離れたところからテンペストを打ち込めばいい。でき
るかい?」
「うっ、うん!大丈夫、できるよっ!」
「見守ってあげたいけど、中学校の校舎内の方でもう一つ別の魔物の反応があるんだ。僕はそっちを見てくる。だからここは頼んだよ。」
「わっ、わかった。」
いきなりの実践で緊張しているし、正直鏡夜くんには傍で見守ってほしかったけど、もう私は正式な闇祓いなんだ。弱音を吐いてる場合じゃない。魔物をそのままにしておくと、人にとり憑いて悪いことをしてしまうかもしれない。
私は杖を握りしめて、畢方という鳥の魔物へと目をやった。
夜の中学校の校舎内は、先ほどまいと別れた鏡夜の廊下を走る音が響いていていた。
一階の理科室前の廊下で物音に気付き、鏡夜はその足を止めた。理科室の中からは、“どんっ…どんっ…”と何か大きなものが飛び跳ねているような鈍い音が聞こえる。
「この中だな…。」
鏡夜は中の様子に注意しながら、理科室の扉をあけて室内へと入った。
理科室の奥には、黒い人影が見える。それは一定の間隔をあけて飛び跳ねて、彷徨うように移動していた。
(先ほどから聞こえた物音は、こいつが飛び跳ねる音だったのか。)
教室中央から窓側の方へと、大人の背丈ほどある人影は飛び跳ねていき、月明りに照らされてその姿を明らかにした。
その姿かたちは、中国の伝統的な服を身に着けた大人の体格の人間である。しかし、彼の青白い肌は、どう見ても生きている人間のものではなかった。腕と足をぴんと延ばし、死後硬直でまだ関節は上手く曲がらないらしい。そのため跳び跳ねる様にして移動を繰り返している。額には黄色いお札のようなものが張り付いてあり、その下には恐ろしく伸びたキバをもった真っ赤な口が見えた。
「こいつは…キョンシーか。」
鏡夜の声に気づいたキョンシーは、“ドンッ”と音を鳴らし、窓側から鏡夜の立つ入口側へと跳ねて向きを変えた。
そして体を少し前傾にし、目にもとまらぬスピードで前方に跳び跳ねて、瞬きした直後にはもう鏡夜の目の前まで迫っていた。真っ赤な口から覗く牙と、するどい青紫色の長い爪が鏡夜を襲う。
キョンシーの突然の攻撃をなんとか躱した鏡夜は、腰に下げた剣を引き抜いた。キョンシーは体勢を整え、再び長く硬い爪を振り回し、鏡夜を襲った。
鏡夜の持つ一本の剣に対して、キョンシーは二本の腕から生える長い爪を振り回し、鏡夜はそれを受けることに精一杯だった。鏡夜は反撃のチャンスを覗い、一瞬のスキをついてキョンシーの腹部に一太刀浴びせることができた。
(…ッチ、肉を切ったという手ごたえはなかったな…。浅く入っただけの斬撃では、死後硬直で硬くなったキョンシーの身体を切り裂くことはできないか。隙を見て、もっと深く切り込まないと駄目だな…。)
しかし、深く切り込むほどの反撃の隙がなかなか見出せず、キョンシーの攻撃を受ける時間がしばらく続いた。
慣れてしまえば、キョンシーの攻撃を受けること自体はさほど難しくなかった。死後硬直で動かせる関節が制限されているキョンシーは、直線的な攻撃が多かったからだ。
キョンシーは右腕を大きく振り上げて、その長い爪で鏡夜の身体を切り裂こうとしてきた。
(またまっすぐの単調な攻撃か。)
そう思ってキョンシーの攻撃を受けようと剣を構えたが、先ほどよりも速く、そして軌道が今までのものとは違っていた。直線的だと思っていた攻撃は、ぐにゃりと曲がって鏡夜の右腕を切り裂いた。
「なにっ!?ぐっ!」
鏡夜の白いシャツの右腕部分からは血が滲んでいる。そこまで深く切り裂かれたわけではないが、右腕に上手く力が入らない。
(そうえば、キョンシーは爪に毒があるんだったか…。)
仕方なく鏡夜は利き手ではない左手に剣を持ち替えた。どうやら死後硬直が解け、関節が曲がるようになったため、攻撃の軌道もスピードも変化したようだ。
「ということは…今なら浅く入っても肉を切れるってことだ。」
死後硬直が解けたキョンシーは、先ほどよりスピードが増し、攻撃のバリエーションも増えたようだった。だが、これで鏡夜の攻撃も簡単に通るようになった。
鏡夜の剣とキョンシーの爪がぶつかり合い、火花が散る。キョンシーの左腕からの攻撃を右に跳んで躱し、そのままキョンシーの左腕を切り落とした。
それに怯むことなく、キョンシーは右腕の長い爪を、鏡夜の左肩へと突き刺すように伸ばした。鏡夜もまた、キョンシーの残った右腕を切り落とすべく、利き手じゃない左手で剣を伸ばした。
キョンシーの爪は鏡夜の左肩に突き刺さり、鏡夜の左腕は鮮血に染まった。鏡夜は苦痛に顔を歪めながらも、キョンシーの右腕をなんとか切り落とした。
傷の具合では、両腕を切り落とした鏡夜の方が相手に損傷を与えていたが、両手がつかえないという点では、両腕を切り落とされたキョンシーと、毒の影響で両手が使えない鏡夜は、お互いイーブンな状態である。
(残った戦闘手段は…、お互い牙だけか。)
両腕を失ったキョンシーは、鏡夜に覆いかぶさるようにして鏡夜の左肩にかみついた。それを鏡夜は避けることなく、無抵抗でただ受けた。
鏡夜の首筋を流れる動脈が噛み千切られ、彼の鮮血が空に舞った。
しかし、鏡夜は平然とした表情である。
「吸血というその一点に置いて、ヴァンパイアに敵うとでも本気で思っているのかい?」
そう言うと、鏡夜はすぐ目の前にあるキョンシーの左肩へと牙をたてた。
その途端、浮き輪に入れられていた空気が抜けていくように、キョンシーの身体はしおしおと干からびていった。鏡夜に全ての魔力を吸い取られたキョンシーは、そのまま崩れ落ち、灰のように消えていった。
鏡夜はそれを見届けると、自身の右手をグー、パーと動かして、腕に入ったキョンシーの毒がもう打ち消されたことを確認した。
(毒の影響はもう大丈夫か…。右手や首筋の傷も、さっきキョンシーからドレインしたからもう治りかけてるな。)
「さて、吸血で霊力も回復したところだし。急いでまいのところに向かわなくちゃ。」
血で濡れた両腕をマントで隠し、鏡夜はまいのところへと駆けて行った。
中学校の校庭では、畢方という名の鳥の魔物が、気持ちよさそうに朱色の羽を広げて飛んでいた。
そのあとをまいが必死になって箒に乗って追いかけている。
「あぁ~、もう全然当たらない!」
体育倉庫の屋根の上、防球ネットの上など、畢方が羽を休めて留まるごとに、何度もテンペストを打ったけど、スピードが足りないのか簡単に逃げられてしまう。
「全然当たらないなぁ。」
箒に乗って畢方を追いかける。遠すぎると魔法を避けられてしまうし、かといってあまり近づきすぎると、くちばしから炎を吹いてくるので容易ではない。
畢方は、今度は手洗い場の上に羽を休めた。気づかれないように忍び足で、畢方の後ろからそっと近づいた。
「そっと、そーっと、動かないでよー…。」
テンペストを打とうと思った瞬間、畢方は羽を広げて飛び去るかと思いきや、私のすぐ目の前に舞い降りてきた。
“あっ…まずいっ。今この距離で炎を吹かれたら、私はまる焦げになってしまう…。”
畢方は口を大きく開け、“キィェェーッ”と声を上げた。今にも炎を吹き出しそうだ。
今のこの状況で、自分の身を守るにはどうすればいい…!?
私が今使える魔法は風の魔法だけだ。私はとっさに身を守るための魔法をイメージした。私の周りを、風が守ってくれる……風の壁の魔法。
畢方の口から、燃え上がる炎が吐き出されるのが見える。気が付くと、私は力強く杖を握りしめ、魔法を唱えていた。
「テンペストっ!」
杖の先が光り、私の周囲を囲うように風が巻き起こった。
まるで竜巻の渦の中心にいるように、自分の周りを物凄い勢いで風が渦巻いている。強風が外からの攻撃を打ち消す、厚い風の壁ができあがった。
その風の渦でできた壁は、私のいるところを中心にどんどんと外側へと広がっていき、数秒後には穏やかな風となって消えていった。
「あれっ…あの鳥の魔物はどこにいったんだろう…?」
見渡しても畢方の姿はなかったが、校舎の方から鏡夜くんが駆け寄ってくるのが見えた。
「すごいじゃないか。今の魔法!」
鏡夜くんは私の傍で歩を緩め、目を丸くしながら言った。
「えっ…と、ありがとう。さっきの鳥の魔物は…?」
「あぁ、畢方なら君の作った風の魔法に巻き込まれて、塵になって消し飛んだよ。自分を中心に風の壁を作るとはね。外からの攻撃を防ぎつつも、攻撃にも使える…。これはなかなか凄い魔法だね。」
「そうだったんだ…。とっさに思いついたことをやったから、何が起きたのかわからなかったよ。鏡夜くんは大丈夫だった?」
鏡夜くんのマントは少し破れていて、そこから白いシャツに血が滲んでいるのが見えた。
「あぁ。ちょっと苦戦したけどね。無事に倒して、身体ももう回復してる。」
「そっか。よかった。」
中学校全体を靄のようなものが囲っていたようだが、それが完全に消え去った。どうやら魔物を倒して異世界から現実世界に戻ったようだ。
鏡夜くんは闇祓い手帳を取り出して、ポイントの画面に切り替えた。
「まいもポイントを確認してみなよ。きっとさっき倒した魔物のポイントが入っているはずだよ。」
私はポケットから自分の闇祓い手帳を取り出して、ポイントの画面に切り替えた。
「あっ、本当だ。ポイントが2になってる!」
「さっき倒した魔物のポイントは2だったんだね。ちなみに僕が倒したのはキョンシーという魔物で、ポイントは4だったよ。」
鏡夜くんの闇祓い手帳の画面には、4ポイント追加されて現在は22ポイントになっていた。
「うわ~、すごいね。もう22ポイントなんだ。」
私が驚いた様子でそう言うと、鏡夜くんは「いやいや」と否定した。
「まだ四分の一にも達していない。そもそも、魔物が近くに出現するのは月に一回あるかないかくらいだからね。」
そういえば、今は八月の最終日、そして前回の鬼の魔物が出たのは、七月の最終日だった。前回の魔物の出現から、丁度一か月たったことになる。
「それに、最初の頃は皇さんが僕に戦い方を教えてくれながら、一緒に手伝ってくれていたからね。」
「そうなんだ。」
皇さんは鏡夜くんにとっての師匠だという風に話は聞いていた。でも、こないだの二人の関わり方を見ていると、少し年の離れたお兄ちゃんと弟のようにも見える。
「それにしても、奇妙だな。」
鏡夜くんは顎に手を添えて、何か考えにふけっているような表情である。
「どうしんたの?」
「さっきまいが倒したのは、畢方という中国の魔物だ。僕が倒したキョンシーも典型的な中国の魔物だろ。そして、先月倒した鬼だって、本来は中国から伝わったとされる魔物なんだよ。」
「最近、この辺は中国の魔物ばかりが出てるってこと?」
「いや、まだ断定はできないけどね。単なる偶然かもしれないし。」
そうは言いつつも、鏡夜くんは何かおかしいと感じているような表情だった。
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