10、お食事
「あの……ずっと疑問に思っていた事なんですけど」
異様に長くてデカい長机が鎮座し、随所に豪華な調度品があしらわれ、所狭しと長机の上を料理が埋め尽くしている。この宮殿の食堂だ。
まさしく俺のイメージする貴族の食事を体現したような空間だが、だからこそ俺は訊かなければならない。
「何で、俺しかいないんです?」
そう。長机の前には、俺一人しか座っていない。大きな長机、大量の料理に対して俺一人と言うのは、ちょっとしたギャグっぽい光景ですらある。
これだけの規模の宮殿。掃除をするだけで一苦労だろうし、ヘンリエッタさん配下のメイドさんが死ぬほどいるのもこの目で見ている。リオネスさん配下の政治組だってかなりの数がいるはずだ。
俺が知る限り、この宮殿には食堂はここしかないはず。なのに、どうしてこの場で席についているのは俺だけなのだろう?
けれどヘンリエッタさんは眉一つ動かさない。
「この宮殿は豊穣神様のもの。その朝食の席に豊穣神様以外の者がいる方が不自然ではございませんか」
「そう、なのかな……?」
「そうなのでございます!」
断言された。これ以上反論したら変な地雷踏み抜きそうだからやめとこう。
豊穣神である俺と、メイドさん達や政治組の生活は切り離すべき、って考えなのかなぁ。俺は全然そんなこと気にしないんだが。
ちなみに、レイナさんはいったん席を外している。あの賑やかな声が傍にいないのは寂しくもあり、ちょっとだけありがたくもあった。
ともあれ、朝食が始まる。俺は肉、魚、野菜、麺類など、カバーできてないジャンルなんてないんじゃなかろうか、と思えるほどの料理の群れを前に舌鼓を打つ。
つーか、多すぎる。絶対食えねぇ……が、俺が食べきれなかったヤツは他の人達で食べるから気にするな、との事。じゃあ最初から一緒に食えばいいじゃん。残飯処理させてるようで居たたまれなくなるわ。
とまぁ、何となく釈然としない思いで朝食を食べ終えると、ヘンリエッタさんが俺の横に立って何やら手帳を取り出す。おぉ、それっぽい。
「それでは、豊穣神様の本日のご予定をお知らせいたします」
「はい、お願いします」
「特にございません。ゆるりとお過ごしください」
「ないんかい!」
はっ、思わずツッコんでしまった! けどまぁ、ツッコむだろう普通。
「どうかなさいましたか? 豊穣神様」
ヘンリエッタさんが済ました表情で言う。余談だけど、ヘンリエッタさんは最初の印象で暑苦しい人なのかと思っていたけど、本来はこれくらいクールな人みたいだ。まぁ、ちょっと興奮しやすい性質なだけで。
「いや、どうかなさいましたかじゃなくて……あれだけ予定がある感じで話を引っ張られて、ありませんでした、じゃ肩透かしもいいとこじゃん!」
「そうですか……ふふ」
と、何故か笑いだす。え、笑うとこあった? 今。
「いえ、豊穣神様はまだわたくし共に気を遣っていらっしゃるように見えます。それは勿論ありがたいのですが……今のように砕けた言葉で話して頂けるのも、わたくし共にとってはとても嬉しいのです」
「はぁ……」
まぁ全員初対面だし? ぱっと見、年齢が上の人ばかりだし? 初日にキレて変な地雷を踏んだ身としては、敬語の方が色々楽そうだし?
そんな理由で極力敬語を貫いてきたんだけど、向こう的にはそうじゃない方がいいのだろうか。
「なら、少しずつ言葉を崩していきます……いくけど、さ」
そう言うと、ヘンリエッタさんはめちゃくちゃ嬉しそうな顔になった。分からん。この人の嬉しさの基準が分からん。
まぁいい、気を取り直そう。
「で、今日は何もないんだよね?」
「はい」
「……じゃ、街に出てもいい?」
「ダメです」
即答。まぁ、分かってたけど。
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