2、神住まう国レーヴェスホルン
俺の素性がバレない程度に雑談を交わしながら歩き続ける事、数時間は経った頃。俺達はようやく目的地である神都に着いた。
この世界には『魔物』というヤバい生物がわんさかいるらしいが、神都に着くまでに一度も出会わなかった。理由を聞くと、この国は神都に住んでる神様とやらの加護のおかげでそういった危険はほとんど存在しないらしい。
加えて、豊かな土地は多くの農作物を育み、生活を鮮やかに彩る。人々はとても心優しく、助け合いの精神が根付いている。住む分には何とも理想的な国だろう。
が、他国からの移住はほとんど認めないらしい。レーヴェスホルン自体かなり小さな国で、神都を含めて人の住む村や街は数えるほどしかないので、外からの人を受け入れる余裕がほとんどないのだ。
かといって特に閉鎖的なわけでもなく、むしろ他国からの旅行者などは歓迎してくれるとの事。うん、この世界でもだいぶ特殊な国っぽいな。
(しっかし、神様、ねぇ……)
レーヴェスホルン以外の国にはそもそも『神様』なんて存在はいないらしい。それもあって良くも悪くもレーヴェスホルンは周辺国から注目を帯びていたが、やがて世界で唯一の絶対不可侵国としての立場を確立した。
細かい事情は分からんし、丸く収まっているんだからあーだこーだ言う理由もないけど、どうにも『神様』という存在が人間の身近にいる、という状況が想像しづらい。元から俺は信心深いわけでもないし。
「さぁてと、俺達も一緒にギルドに行くぜぇ。ついてきな、アキ!」
「ああ、ありがとう。でも、いいのか? そこまで付き合ってもらわなくても、場所だけ分かれば1人で行くけど」
「いいのよ。ギルドに依頼が入ってたらいいな、程度の感覚で顔を出すだけ。まぁ、何もないでしょうけど」
神都に入った俺たちは、目抜き通りを歩きだす。ぱっと見、中世ヨーロッパの街並みを少し古ぼけたようにした感じだ。……いやまぁ、中世ヨーロッパの街並み自体、完全に俺のイメージでしかないけど。
この世界には魔法が存在していて、生活に戦闘にと色んな場面で用いられるらしい。なので生活水準で言えば、確実に中世ヨーロッパよりも上だとは思うが。
ていうか、すげぇ活気だな。ひっきりなしに聞こえる笑い声とか、行き交う人達の活発な会話とか、多分高校の教室とかよりも活気づいてる。
この国の豊かさの縮図が、この神都になるのだろうか。心なしか街全体が輝いて見えるぜ。
「けど、依頼がないって何で分かるんだ?」
「言ったでしょ? この国は平和だって。冒険者が商売あがったりな程度には、ね」
マジか。確かに解決すべき問題がないなら、何でも屋みたいな立ち位置らしい冒険者の仕事がほとんど舞い込まないだろう。
俺も登録だけして、とっとと場所を移した方がいいか? 拠点に据えるなら、それなりに栄えていると同時に、ちょっと治安が悪いくらいがちょうどいい気がする。
いや、でもこの世界で通用する金がなきゃ話にならないし、依頼がないにせよどうにかして金を稼がないと。
前途多難。だけどそれがいい。死んだ目で授業を受けてた数時間前の俺より、今の俺の方が確実に楽しんで生きているはずだから。
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