運なんかじゃなくて、全て自分の所為。

鯖信者

市場最悪で最高の日

「あーあ、テス勉のあとに『サバてんどんダイレクト』見ちゃったよ」

 俺は5人部屋のど真ん中にいながらも、ふと、そんなことを呟いた。『サバてんどんダイレクト』略して『サバダイ』。これは今、俺がハマっている家庭用娯楽機械ゲームの最新情報をお届けする広報誌だ。

 そのおかげで昨日のテストが95点で発狂する男。俺、鯖爛。引き続き今日は寝坊、ご飯の炊き忘れ、急ぎすぎて転倒、そして遅刻…と思いきやまさかの休講。全て自分が悪いのに心の中で「運が悪かった」と言い訳している自分がいる。それなのに、引きこもってJC見てるから色々やばい。

「助けて」という声に、耳を傾け続けてきたけど、自分いつも誰かの助けを求めているし、求めたところで誰も助けてくれないのがこの世の中。自分で立ち上がらなければぜったいに勝てないって気づいた時にはもう遅い。



 ―――全てを終わらせよう。



 突然、重たく地響きが鳴り響き、俺は漆黒の闇に飲み込まれた。
















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 2週間ほど苦しんで、4日放置されてるから精神的にきてる。

 ここは突然の地震で崩れた部屋の中。俺は瓦礫の下、孤独は涙をも流させない。

 胃が痛い、頭が痛い、泣くほどには痛い。この瞬間に、自分は何してんだろ。

 誰かに助けてほしくて、この2週間電話帳に登録されてある電話番号にかけまわっていた。電池は1%になっていた。もう次が最後だ。

 しかし、焦ったのか、急いでかけ直そうとして自分の電話番号にかけるっていう…。

 そのままコール3回目、『僕は生きてるよ』と誰あてでもなく、ふと声を漏らす。案の定誰もでない。

 あきらめの境地で、携帯を取り出してカレンダー機能を適当にいじる。僕の誕生日、日曜日なんだ。へぇ。興味なし。


「ああ、終わった…。思考能力使い切ったわ。」———そう思った次の瞬間。






「鯖爛爛か、今ナウ助けにヘルプ行くヨ!あと、彼女を頼んだ。」


「お、お前は…!」―――――


 光が差し込むと同時に、意識が遠のいた。





























 ―――1カ月後。


 俺は気づいたら、病院のベッドの上にいた。誰かに抱えられたのをぼんやりとだけ覚えているけど、僕は瓦礫の上で発見されたとレスキューの人にあとから聞かされた。

 あの電話の声はたしかに、バイト先で知り合った外国人だった。しかも俺にとって唯一無二の存在。大学に入って知り合ってそこから3年ぐらい付き合ってたんだ。


 ―――彼女作ったらディズニー行ってキャラのカチューシャを付けてあげるのが長年の夢なんだ―――


 そう、幸せそうに語っていたアイツ。あれは地震の1週間前だった…もう夢が叶う、その矢先に彼は車に衝突して亡くなった。できたばかりの彼女をおいて。

「そのうち自分の名前も誕生日も、さらには存在すらも忘れてしまうのではないか。」みたいな文章をなにかの小説で見た気がする。きっとアイツも忘れてほしくなかったんだ。彼女のことを含め…。

 アイツは気前が良く、面倒見がすごくいいから、天国という遠い地からやってきてわざわざ僕を助けてくれたのかもしれない。いや、僕とアイツの絆が起こした幻聴だったのかも。

 なんにせよ感謝しているのだ。でも傷を見られたくないから外出るときは毎日長袖…。しばらくは続きそう。







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 今月は誕生日月だなぁ。ありがとう。ありがとう。アイツへ、ありがとうございます。

 お前の横にいるはずだった彼女と今日、桜を見に行きます。―――

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運なんかじゃなくて、全て自分の所為。 鯖信者 @saba_lun

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