第18話
浮気の証拠を初めて見つけたのは春の終わり。美しく咲いている桜がモノクロに見える日が来るなんて思いもしなかった。夫と話し合いをしたのは夏の最中。外は狂いそうなくらい暑かったが、夫との間は冷え切っていた。私が夫への仕返しを思いついたのは秋の終わり。夫婦関係程は冷えていないが、徐々に冬の足音が聞こえ始めていた頃だった。
私はずっと考えていた。浮気相手の女が最も恐れることとは何なのだろうかと。想っている男が自分を捨てて去る事なのか、妻から法的な仕返しを受けることなのか、やましい男女関係が周囲にばれることか。恐らくすべてだろう。だがきっとその中でも順位があるのだ。
男が自分から去って妻の元へと帰っていくことは関係の終わりを示し、終わる際には必ず本妻の顔がチラついて怒りと絶望感に苛まれるだろう。
法的な仕返しを受けることに関しては承知の上なのかもしれない。女の方が積極的で、再婚相手に収まることまで望んでいるのなら尚更だ。私から慰謝料や謝罪を要求されたとしても金や土下座で事が済むならお安い御用・・・ぐらいにしか感じないかもしれない。形だけの謝罪が済んだら、そこからまた夫と関係をこっそり続けることも考えられる。
では自分が不純な男女交際をしていることが世間にばれたらどうだろうか。親兄弟、仕事関係、交友関係などに幸せな家庭を崩壊させ、パートナーのいる男性の略奪を企てている悪女な姿を世間に晒されたらどうだろう。そして近しい人々の記憶に一生残り続けるとしたら・・・。
私なら耐えられない。愛した男が去っていくよりもずっとダメージは大きい。
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