第15話

 浮気が発覚して問い詰めた時、夫は私に謝った。やり直したいとも言った。そしてすべてにおいて自分に責任があるから、相手の女には絶対に関わらないでほしいと懇願してきたのだ。その言葉を聞いて私は逆上した。


 浮気の証拠を発見したときも、浮気を認めてぼそぼそと語る彼の反省の弁を聞いている時でさえ冷静さを保てていたが、その言葉だけは聞き捨てならなかった。彼は自分一人が悪者になり罰を受けるというように言いたかったのかもしれないが、私には浮気相手の身を案じ、私からの報復を受けないように庇い、守っているかのように聞こえたのだ。


 浮気相手のことは庇って、私のことは浮気相手を虐める悪鬼のように言うなんて・・・‼


 夫の話しに横槍を入れないように聞いていた私はとうとう腹の虫がおさまらなくなり、その腹の虫が腹を食い破って夫に向かって襲いかかろうかというくらい頭に血が上った。夫から押し付けられた負の感情を激しく揺さぶられた瞬間だった。私は椅子から立ち上がってテーブルに置いてあった新聞紙を彼に向かって投げつけた。夫は微動だにせず、私の怒りをそのまま受け止めた。投げつけた新聞紙は彼の肩に当たり、思っていたよりも柔らかい音を立てて床に落ちた。


 それからしばらく沈黙の時間が流れた。夫は俯き、私は睨み続けた。湧き上がる怒りをこれ以上どこにぶつければいいのかわからず、口からなかなか出すことのできない夫を罵倒する言葉が喉の奥でつっかえていた。

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