第14話

 しかし一年以上も私と娘を裏切りながら何食わぬ顔をして生活をしていた上に、度々私の体にも触れていたという事実は無視できなかった。かと言って離婚を言い出す気もなかった。私自身のことよりも娘の人生のことを考えると勢いだけで夫と別れることはできなかった。娘が絡むと、夫のことをとやかく言えないくらい私も優柔不断になってしまうのだった。


 娘の将来を考えると別れるか別れないかの判断は容易にできなかったが、浮気を許すか許さないかの判断は最初からできていた。答えは『許さない』だ。簡単に許せるほど私は心が広くないし、裏切り行為を許す理由もない。できることなら夫を半殺しレベルにまで痛めつけ、さらに相手の女の元にも乗り込んで夫同様、身も心も徹底的に潰してやりたいと思った。だが裏切り者のために自分が社会的に死んでしまうなんてことは避けたかった。


 離婚はしたくないが制裁も加えたい。更にその思いが強くなったきっかけを彼は私に与えた。浮気を疑い始めた時から、彼は私に嫉妬や怒り、悲しみなどの不の感情ばかり与えてくる。夫の心を盗み取った女に夫は何を与えていたのだろうか。浮気相手にも浮気相手なりの不の感情はあったかもしれないが、私ほどの苦しみを背負っていたとは考えられない。仮に淋しさを感じていても、夫から優しい言葉をかけられて、一瞬でもその淋しさを忘れることができていたかもしれない。


 私には与えられないものを浮気相手は当然のように夫から受け取っているのだ。悔しいけど羨ましかった。私が今一番求めているものを与えられている女を心底憎いと思った。

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