第13話

 彼は後ろめたさと快楽の狭間で家庭と浮気相手を天秤にかけていた。その天秤は家庭の方に大きく傾きかけていたが、女の強引さと自分の性欲に抗うことができずにいつまでもはっきりしないままゆらゆら揺れ続けていた。


 しかしどれだけ体を重ねても、浮気相手が家族の存在を凌駕して彼自身を征服してしまうことは無かった。別れなければと思っていたが、女の強引さと彼の意思の弱さがいつまでも天秤を揺らし続け、はっきりと別れ話を切り出すことができなかった。


 時計が時を刻む音と外を走る車の音しか聞こえない部屋の中で、彼は私の目を見ることなく震える声で相手と自然消滅する時を待っていたのだと話していた。自然消滅とは・・・。


 あなたに飽きて、女の方に交際相手ができる日を待っていたのかと問うと、そうだと答えた。相手は離婚まで迫っているのに自然消滅するなどありえないと思うのだが、夫の中では女が言っていた言葉というのは、全て感情が高ぶった際に出た戯れ言だと受け止めていたようだった。嘘か誠か、夫の言葉をどこまで信じればいいのかわからなかった。


 

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