第12話

 浮気相手は夫の職場にやって来る製薬会社の営業の女性だった。夫は病院で事務職に就いている。製薬会社の営業なら営業の相手は医師なのだが、医師と個人的な約束をする際には医師への事前のアポイントメントのほかに、当日の院内での受付が必須なのである。夫はその受付も担当していた。二人はそこで出会った。やがて何度か顔を合わせるうちに世間話をするようになり、さらに女の方から夫を食事に誘って不倫関係へと発展した。


 初めて食事に行った時から罪悪感があって後ろめたかったが、体の関係を持つようになっても私にばれない日々が続くと安心して連絡を取り合うようになった。関係に積極的だったのは最初から女の方で、いつか私と別れて自分と一緒になってほしいと度々懇願していたらしい。ずばっと決断できるはずもない夫はそう言われるたびにうやむやにして、欲にまみれた関係を一年ほど続けていた。


  向かい合って浮気を問い詰めている時にも、彼に離婚の意思はないとわかった上で、相手の女との馴れ初めや逢瀬の頻度などを聞いていた。俯きながら夫は体だけの関係が続いていただけで情はなく、長引かせる気はなかったと小さくなりながら話していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る