第10話

 自分を責めるようなことはしたくないが、夫が浮気をしていた間、何も気付かずニコニコ生活していた自分が間抜けで愚かな気がして、時々心がもやもやする。そんな靄が心を覆い始めると、その靄を振り切るために夫と浮気相手の女を心の中で思い切り詰るようにしている。


 なんだか夫の浮気が発覚してから急に性格が悪くなったような気がする。短気になり、疑い深くもなった。もしかしたら表に出ていなかっただけで、心のどこかにずっと潜んでいた感情なのかもしれないが、女の業のようなものが隠し切れない質になってしまった。


 人は一度変わってしまうとほとんど元の自分には戻れない気がする。過去の自分が知らなかった黒い世界を知ってしまうと、明るい世界が逆に紛い物の様に見えて、黒い世界こそが自分の世界なのだと思えて来る。私が明るい世界に戻ることができる日はきっと来ないだろう。今の結婚生活を続けていても、仮に離婚して違う男と結婚をしたとしても戻ることはできない。


 悪い意味で私の世界観を変えた夫の罪は重い。当たり前にあった日常と、あるとは思わなかった家庭の中の闇を見せつけられた私は鬼になった。後悔はしていない。鬼にでもならなければ自分と娘の生活を守れる気がしなかったからだ。

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