第4話
顔を上にあげて体の中に溜まっていた不安や後悔の塊のようなものをため息に変えて吐き出した。今の時間は九時。そろそろ彩音に事を伝えて家まで送っていかなければいけない時間だ。実家暮らしの彩音の家には門限があり、その時間を過ぎると何かと煩いらしい。なんとかして門限である十一時までには送り届けなければならない。それならもう伝えなければ・・・。
小さくゆっくりと動く彩音の背中を見て、この背中が硬直して微動だにできなくなる瞬間がくることが怖かった。その時を呼び寄せるのは俺だ。俺自身が彩音を追いつめ強請るのだ。
緊張で呼吸が荒くなる。壁のシミの方を見て無理矢理深呼吸を二回してみたが何も変わらなかった。もうやけっぱちでいくしかない。
「あ、あーちゃん、起きてる?」
覚悟をしたつもりだったのに声が震えてしまった。誤魔化すようにもう一度しっかり問いかけてみたが彩音からの返事はない。やはり眠ってしまっているらしい。手を伸ばして彩音の肩の辺りを揺すってみると思っていたよりもすぐに目を開けてこちらに向かって柔らかく微笑んだ。
「もう時間?起きなきゃダメ?」
甘えた口調で尋ねて来る。こういう仕草で、こういう物言いで可愛く自分を魅せれば大概のことは罷り通ると思っているのだろうか。年若いくせに男の好みをすべて把握しているかのような雰囲気を出してくるところが鼻に付く。だがそういう自分の持っている武器を出し惜しみしないところが彩音の魅力なのだろう。
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