第9話

乗り過ごさないこと。


そうすれば目的のバス停で降りることが出来るのです。


その時の私には、それはとても簡単なことのように思えました。


私はなにも躊躇うことなく、バスに乗りました。



ふと気がつくと、バスは山の中を走っていました。


昨日見たあの暗く細い山道です。


――!


降りるべきバス停が近づいていたことは覚えています。


しかしそこからの記憶が全くありませんでした。


眠りについた覚えさえも。


それはまるで一瞬にして気を失ってしまったかのようでした。


そしてバスは表示もアナウンスもないままに停まりました。


昨日あの老婆が乗ってきたあのバス停で。


停留所には誰の姿も見えませんでしたが、ドアが開くと血の臭いが流れ込み、腹を裂かれた老婆が乗ってきました。


老婆は昨日と同じように振り返り、前を向くとゆっくりと歩き出し、左側の前から二番目の席に座りました。


運転手も昨日と同じ三人の乗客も、老婆に目は向けるのですが、それ以上の反応はありません。

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