二章 何も知らない

神王しんおう、アルティメウス。


フォースの全知全能を司る神である。


アルティメウスは始めにに大地を創った。

水を降らせ川を創り、海を創った。

降った水で緑が増え、森ができる。


今度は季節の女神ティルデを創くり、世界に色を与えた。

海王ポルトンを創り海に生を与え、冥王ハディエスを創り、死者の国を創り生の終わりを与えた。のちに冥界と呼ばれる。


双子の神、太陽神リオスローンと月の女神アルセネスを創り、昼と夜を分けた。


そしてアルティメウスは、地上に短命の人間と、長命の魔族を創ったのだ。


始めは2つの種族はとても仲が良かった。


人間は魔族より弱かったが、手先が器用で頭が良かった。

魔族は人間より不器用だったが、力持ちで魔法が使えた。


2つの種族は互いに補いながら幾年も過ごしていたが、それを面白く思わなかったのは戦の神アレイウスだ。


アレイウスはアルティメウスが誤って創ってしまった神であった。

鉄の籠の中に閉じ込めておいたのに、隙を見てアレイウスは逃げ出すと、人間に囁いた。


《お前たちは頭がいい。あの野蛮な魔族とは違うだろう?いつまで魔族と馴れ合うつもりだ。ああそうだ、力をやろう。今こそ立ち上がり戦うのだ》


アレイウスがそういうと、人間は魔法を扱えるようになったのだ。

アレイウスにそそのかされた人間は、剣を持ち魔族に刃を向けた。

魔族からすれば、それは最悪の裏切りだった。


愛を誓い合ったはずの2人は引き裂かれ、逃げようとすれば同胞に殺され、魔法と魔法のぶつかり合いで、美しかった大地はみるみるうちに炎に包まれた。


怒った海王ポルトンは、大地を揺るがし津波を引き起こた。

その津波は多くのものを飲み込みたちまち死者で溢れかえり、冥王ハディエスは怒って冥界の入り口を閉じてしまった。すると死者の魂が地上にたまることになる。


そこでようやく異変に気付いたアルティメウスだが、すでに遅かった。


同胞の屍を踏みつけながら、2つの種族はそれでも戦っているのだ。

憎しみは憎しみを生み、果てのない戦いが続いていた。


どうすれば良いのか考えたアルティメウスは、神の使徒ルシエルを創る。

のちに天使と呼ばれ、熾天使セラフィム、天使の長を務めた。


12枚の美しい翼を持った美しい天使は、アルティメウスから力を授けられる。


大地に降り立ったルシエルは、その力を使い、それまで続いていた長い長い戦いを、いとも簡単に終わらせてしまった。


《魔族と人間の諸君。私の名は神の使徒ルシエル。神の意思を伝え、神と共にあり、あなた方に寄り添う者。さあ、戦いはおやめなさい。家族を亡くし、友を亡くし、あなた方は何のために戦うのですか。もう、安らかに眠らせてあげなさい》


ルシエルの言葉にやっと、2つの種族は我にかえり、自分たちの足下にたくさんの山のような屍が転がっていることに気がついた。


あるものは項垂れ、あるものは泣き、あるものは立ち尽くした。


幾年も続いた戦争の終止符だった。


あまりにも長く続いた戦争は、2つの種族にわだかまりを遺す。

家族を殺され、友殺され、憎しみがなくなるわけではない。


元に戻ることはできないのだ。


ルシエルは国境を定め、人間の国と魔族の国を分けることにした。


戦の神アレイウスは逃げる矢先、アルティメウスの雷に打たれ捕まり、今度は鉄の箱へと閉じ込められ、二度と出れないようにした。


そしてアルティメウスは、最後に平和の女神レネを創り、永い永い眠りにつく。


ルシエルはアルティメウスから箱を頼まれ、アルティメウスが目覚めるまでその永遠の番人として、命尽きればまた転生を繰り返し何度も復活し箱を守ったのだった。



ーーーーー



クスクスと笑い声が聞こえる。


華子の視界は黒く塗りつぶされていた。


クスクスと笑い声が聞こえる。


立っているのか、座っているのか、それすらわからないほど黒く塗りつぶされていた。


クスクスと笑い声が聞こえる。


耳を塞ぎたいのに、その耳があるのかもわからなかった。


クスクスと笑い声がやまない。


《怖いのか?恐いのか?楽しいなぁ、………ル。楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい!!!アハハハハハハハっ!!!どこにいようと見つけるぞ、精一杯楽しい宴にするから、…シ……を一番の招待客にしてやろう!!!……ああ、ほら》


暗闇が真っ赤にさける。

ニタリと歪にそれは笑った。



ーーミーツケタ。

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