4
食後のお茶をいただいて、華子はホゥと息を吐き出した。
「あの、何からなにまですいません」
結局図々しついでにお風呂まで入れさせてもらい、出たら豪華な朝食がテーブルに用意されていて、もちろん残さず食べた。
「別によくってよ。わたくしもまだ朝食をいただいていなかったから、ついでだわ」
一緒にテーブルで食べ終わったばかりのレダが同じようにお茶を飲みながらそう言った。
ついでだと言うわりには、図々しい申し出をよく受け入れてくれた彼女には本当に感謝である。
(なんでこんな優しい人から、あんな息子が産まれるの)
『うさぎ、またウサちゃんパンツはいてんのか』
久しぶりにはいたスカートを、あっけなくめくって笑った太郎を思い出して、思わず音を立てながらカップをソーサーにおく。
あれがあったせいで制服以外でスカートを履くことをしなくなり、常にプリーツスカートの下にはインナーパンツをはいていた。
それのおかげで、中学1年生のとき階段から突き落とされても、パンツを晒さずにすんだのは救いだったのか。
いや、代償は落とされて盛大についた手首の骨折だったのだ、救いもなにもないだろう。
今思い出しても腹立たしいが、今更怒ったところで青春は返ってはこないのだ。
あきらめも肝心とはよく言ったものだ。
今度は虚しくなって、深々とため息を吐き出した。
「……なんですの。まったく、」
目の前で百面相を繰り広げる華子を、まるで珍獣でも見てるかのようにレダは眉をひそめる。
「いえ、こっちの話です」
「目の前でそんな風にため息吐かれたら気になるでしょう。それにゴニョゴニョゴニョ…」
「はい?」
「だから!ゴニョゴニョゴニョ……」
「………」
聞きたい部分が全く言葉になっていない。
何故だかレダが少し頬を赤らめているのは気のせいだろうか。
華子はいぶかしむように眉を寄せる。
さっきと立場が逆転して挙動不審な彼女は、次の瞬間バンと勢いよくテーブルを叩いた。
「エリーゼ!!」
「へ?!」
何かの呪文かと思い、華子も身構えて立ち上がると、レダの後ろが歪んでそこに一瞬で人の形が出来上がった。
「ーーお呼びでしょうか。レダ様」
濃紺の
同色のミリタリージャケットに金のベルトを締め、膝下20センチのミニタイトスカートをはいた美形が、翡翠の瞳を細めてこちらを睨みつけていた。
「え、どっから?!」
「このやかましい小娘の口を塞げばよろしいのですね」
突然現れた軍人と思わしき人に驚いていれば、彼女は肩にかけていた
「待ちなさい!」
レダが止めようと声を荒げるが、すでに遅い。
引き金はすでに引かれている。
ーードドドドドドド!!
耳をつんざくような音が聞こえ、華子は悲鳴をあげる暇すらもらえなかった。
(こんな死に方ってない!)
最期まで自分の人生は、自分のものではなかったのか。
(まあ、ここまで撃たれれば即死。苦しみながら死ぬよりは良いのかな……って)
「よくなぁああああい!!……あれ?」
いつのまにか閉じていたであろうまぶたをあける。
「……
あたりは灰色の煙がただよっていて、よくわからない。
あれだけ撃たれたのに、五感がしっかりと働いているし、痛いところすらない。
「夢?夢なの?」
「夢じゃなくってよ」
煙の向こうから、レダの声が聞こえたと思ったら煙が急速に収縮していく。
そして視界が良好になって見えた部屋に愕然と恐怖を覚えた。
「…っ、嘘でしょ」
先程まで華子たちがお茶をいただいていたテーブルは粉々に飛び散り、床にはたくさんの穴が空いて、部屋中見るも無残な姿になっていた。
粉々になったテーブルの向こうには、レダが頭を抱えて立っており、この惨状にした当の本人は舌打ちを打ちながら自動小銃を肩にかけ直している。
(え、え、なんであの人あんなに普通にしてるの?!)
命の危険なんて今まで何度も経験して来たけれど、あんなもの可愛いものだったのねと今なら笑えるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます