香織
同窓会のお知らせが香織の元に届いた。短大時代のサークルの集まりだった。気晴らしに来なよ、と短大時代の友人である葵が声をかけてくれたのだが、その日はちょうど翔太郎と熱海に行く日だった。
「翔太郎、相談なんだけどさ。」
香織はおそるおそる切り出す。
「8月28日が同窓会あるみたいで……。熱海、また今度にできないかな?」
我ながら最悪だと自覚しながらも、どうしても行きたかった。
「それ、俺との約束より大事?」
悲しそうな顔をして答える翔太郎を見て苦しくなり、「やっぱり大丈夫。」と訂正をする。
「なんてね嘘だよ。行って来なよ同窓会。」
香織が暗い顔をしたことに気づいた翔太郎はすぐに笑顔を作って言った。やっぱりいい旦那なのだった。悪いと思う気持ちもある反面、熱海旅行がなくなったことにほっとしていた。
きっと、苦しさを感じるのはここしばらく翔太郎としか話してなかったからかもしれない。同窓会でいろんな人と話したらまた翔太郎のことが好きだと実感するかもしれない。そんな言い訳を並べて罪悪感をかき消す。
「そういえば吉永くんも来るって。」葵がにやにやしながら言っていたことを思い出したが、翔太郎には言えなかった。元彼が来る場所に行くのはいくら翔太郎でも嫌がるだろうから。
未だに未練があるわけではないけれど、学生時代を思い出して少しドキドキしている。同窓会に向けて美容院とネイルサロンに行き、元彼と会うことに浮かれていると実感した。
(ごめんね翔太郎、今回だけだから。)
心の中で懺悔をしながら同窓会を待っていた。
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