2.旅立ち

ログハウス風の部屋の一室、若干堅めのベッドの上で胡坐をかいたままの晴斗スプリムがいた。


「うわっ、最近のVRってすげぇんだな...初期装備で選択したままの装備だけど...あんまり重くな「アンタ何時まで寝てるの!今日は冒険に出るって言ってたでしょ!」あー...そういう設定なのね。差し詰めはじめの村ってとこかな。」


家屋の下の方から母親らしき怒号が飛ぶ。


「アンタはやくご飯食べちゃって!片付けが進まないでしょう!」


ここはRPGだしロールプレイングに勤しむとするか。


「すぐ行くよ!母さん!」


え...これ俺の声?なんか高くないか?大声出しちゃったけどこの部屋防音とか大丈夫なんだろうか。


よいしょっとベッドから降り、ドアを抜けると廊下を挟んで対面にドアが一つと右側に下へ続く階段がある。

階段を下ると恰幅の良い多分母親であろう女性と1歳ぐらいの男の子がテーブルについている。


「にーちゃ!おあよ!」


「スプリム、アンタなんて格好してるのさ、冒険だからって張り切りすぎだね!」


バシバシ背中をたたきながら豪快に笑う母親。


「おはっ、ようっ、いたっ、痛いって!」


「弱々しいねぇ、そんなんで冒険なんか行けんのかい!ほら、さっさと食べちゃいな!」


食卓にはトーストとハムエッグ、トマトスープが並ぶ。すごく美味しそうだ。

そういえば最後に食べたのってゼリードリンクとパサパサしたクッキーのような栄養食だったな...大体10時間前だしお腹が空いても仕方がないか。


ヘルメットを脱いで置き、こんがり焼けたトーストを頬張る。


「うまっ!」


「ふふっ、大げさだねぇ。」


「うまぁー!!」


「はいはい、テディもありがとうね。

そうかい、スプリムももう冒険に出るような年齢なんだねぇ...。

父さんに負けない立派な冒険者になるんだよ。」


【クエスト:”ロイド家の存続”がスタートしました。】


クエスト...?ていうか強制イベントかよ。

概要もないみたいだし、まぁ気には留めておくか。


「ありがとう母さん。たまには戻ってくるから。元気でいてね。」


「もちろんだよ...!家を護るのは母親の役目ってもんさ!」


目に涙を溜めながら笑顔を見せてくれる母親。

待て。断じて俺は泣いてなんかいないからな!断じてだ!


「それじゃ、いってくるね。母さん、テディ。

父さん連れて戻ってきてやるよ。」


「ありがとうね、スプリム。

気を付けていってくるんだよ。」


「にぃに、いってらっちゃ!!」


「あぁ、また戻ってくる頃にはおっきくなってるんだろうな。

寂しいかもしれないけど母さんのこと頼んだよ、テディ。」


「うん!」


強く頷きすぎて口についていたパンくずが床に落ちたが、逞しい弟だな。


「あぁ、スプリム、父さんに会ったらこれを渡してくれない?

あとこれは少しだけど旅の足しにしな。」


【クエストアイテム:クロウ=ロイドへの手紙を取得しました。】

【500Gを取得しました。】

【転移石:ロイド家を取得しました。】

【クエスト”ロイド家の存続”が進行しました。】


クロウ=ロイドへの手紙

 母さん「開封厳禁!」


転移石:ロイド家

 指定した座標に転移出来る魔力が篭った石。

 1度使用すると消滅する。


テキストメッセージがしゃべるのかよ...。てかクエスト進行したけど何したらクリアなんだろうか。父親と再会する、とかなのかな。立派な冒険家だったらしいし遠い目標だな。


母親と弟に見送られ村を闊歩する。


なかなか牧歌的というか、のほほんとした村だな。家は全て木造、全部で5,60軒くらいだろうか。多分商店が並んでいることからここが中央通りだろうか。にしては通行人も少ないしな。


「おう!クロウんトコの坊ちゃんじゃねぇか!鎧なんか装備してどこ行くってんだ!」


「あ、いや、冒険の旅に...」


「おぉ、そうか!そりゃめでてぇ!なんか買ってくか?せっかくの門出だ、安くしとくぜ?」


「装備は一応あるので...大丈夫...」


筋骨隆々の看板からして武器屋なのであろうおっさんに声を掛けられ、半ば強引に武器の手入れ用の砥石を買わされた。おっさん曰く「砥石だけに頼っててもダメだぞ、武器はいつか折れる。切れ味が悪くなったら買い替えるのがイイ、ちょうどいい見極めを出来てやっと一人前の剣士だな!がっはっは!!」らしい。

軒並み全部の商店の店主から声をかけられ、そのたびに祝われ買わされ、手持ちの道具が充実してきた。

・クロウ=ロイドへの手紙

・転移石:ロイド家

・砥石

・ミニポーション*2

・素材袋

・簡易ナイフ


気付いたら母親から貰ったお金の半分も使ってしまっていた。

まぁ、必要経費か。いろいろ情報も得れたし、ただまだこのゲームの通貨であるG(ゴールド)のレートが分からない。ミニポーションが25Gだったため100円程度であろうとは思うが、ポーションがどれほどの効能なのかも不明だから何とも言えないな...。


なんてことを思案していたら村の門にたどり着いた。


「うっし、ここまでの所要時間45分。あと一時間ちょっとだな。次の町までは今日中に行っておきたい。頑張ろ~」


エリアチェンジのローディングは無く、村の外への第一歩を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る