Redo
竹輪葉桜帝王
プロローグ 破壊の神
幸せって何だろう。
それはきっと、誰かと笑いあう時間。
誰かって、誰なんだろう。
それはきっと、大切な家族。
家族って、何なんだろう。
それはきっと、些細な事で喧嘩したり、悲しいときにそっと寄り添いあえる存在。
あぁ、そうだった。
私はただ大切な家族を守りたかっただけなのに、どうしてこんな結末を迎えてしまったのだろう。
あの日。最後の瞬間を何度も、何度も、記憶をスクリーンに映し出す。
「おいっ!そっちはどうなってる!」
「きょ、教団員が自爆しっきゃぁあああ!!」
「アリスッ!くそっ!要!!聞こえてたらっ動けるなら!」
「無理です!こっちも手いっぱいでっ…やばっ弾切れ…」
「ディア!応援行けるか!なぁ!!」
「お願い聞いてあげたいけど、僕ももう無理かなぁ。あははっ」
無線の向こうで仲間が次々倒れていく。
特務隊夕立。これは私が隊長として設立された世界を脅かす宗教集団「黒紐」を殲滅するための極秘部隊。
少人数の精鋭だけで設立された隊は、私にとっての家族だった。本当の家族よりも、弟妹よりも深く繋がれた唯一無二。
「あぁ…」
膝を折り、座り込む。血がズボンに染みていつもなら不快だと思うが、そんなことを気にする余裕はもうない。
教祖である女を殺し、この仕事は終わりだと思っていたのに。
目の前に倒れている少女を睨みながら、ノイズしか聞こえない無線を耳に当て、私は何年かぶりに涙を流した。
実の妹が事故で死に、弟が殺されても涙を流せなかったのに。
私にはなにも残っていない。守るべきものも、生きる意味も。
街を飲み込む炎。聞こえる悲鳴と歓喜の声。数多の命が営みが奪われていく。
覚悟を決めて、私は少女の眉間に銃口を当てる。
こちらを怯えきった瞳で見ながら嫌だ。と涙を流し命乞いをする。
私は笑みを浮かべ、大丈夫だと言い切る。痛みは一瞬、苦しみも一瞬。
「私の痛みに比べれば、な。」
ゆっくりと撃鉄を起こしていく。
彼女こそ、教祖を狂わせていた元凶。この世の巨悪。滅すべき存在。
少女は表情をゆがめ、いやあ゛っと、それでも動けず。涙を流すだけ。
その涙は、何の涙だ。汚らわしい。人の姿を模しただけの怪物が。
「せめてゆっくり、休め」
ぱぁん、と乾いた銃声が響いた。これで終わったと私はその場に倒れこんで天井を見上げる。
息を、やめようとしたその瞬間。
「あぁあああああああああ゛っ!!!!」
叫び声をあげながら脳みそを撃ち抜かれた少女の体はぐちゃり、と音をたてて崩れていく。紫色の混沌とした、水のような、岩のような。物体へと変化していく。
あぁ、これが教団が信仰していたもの。すべてを死へと導く破壊の神。
呻き、暴れるその物体を私は見ることしかできなかった。
これは生命が抗うことはできないと悟ったから。
視界にその物体を入れてすぐに、私の体はその物体に飲み込まれ、痛みを感じる間もなく。消滅した。
ぷつりとスクリーンに映る記憶が途切れる。
「かわいそうに」
甘い、少女の声が響きわたる。
ここには誰もいない。私の記憶と後悔と、絶望だけが永劫繰り返されるはずなのに。
「やりなおす、チャンスをあげるから。もう大丈夫。」
ふと、体が戻る。自分の手を見つめる。
お前は、誰だ?と声をだそうと口を動かす。声は出ない。
答えを得られないまま世界は暗転した。
Redo 竹輪葉桜帝王 @hazakura0920
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