第5話 五
『占い、か―。』
その時三木はどうしてその広告に目をとめたのか、自分でも分からなかった。ただ、三木の精神状態はそんな占いに頼らなければならないほど追い込まれていたのは確かであった。
そして次の日、学校をわざと休んだ三木はその占い師の所へ向かう。
スマホの広告に載っていたその場所に着くと―。
「おや、いらっしゃい。」
そこには腰の曲がったおばあさんが座っていた。
「ほう、なるほどねえ―。」
老婆は水晶玉を見ながら、三木の話を聞く。
「ところであんた、【aspect】っていう英単語は知っているかい?」
「えっ―、はい。高校で勉強しました。
確か、【面】って意味ですよね?」
「そうだよ。それでそれは今のアンタそのものだ。
そのメッセージを送った犯人が分かったよ。
それは、【もう1人のアンタ】だ。」
「―えっ―!?」
そこから老婆の語りが始まる。
「アンタ、今まで野球の練習、本当に頑張てきたんだね。」
「え、まあ一応―。」
「でもそれは、プレッシャーとの戦いでもあったはずだ。そして知らない間にそんなアンタの『負の感情』がたまっていたんだろうねえ。
その『負の感情』の霊魂みたいなものが、そのメッセージを送ったんだよ。」
「そう、ですか―。」
そして三木は今までの三木の人生を振り返る。
三木は今まで、野球の練習を懸命に頑張ってきた。しかしそれは自分自身の力量を上げることと同時に、「競争」でもあったのである。
そして三木はその「競争」に、ことごとく勝ってきた。ある時はレギュラー争い、またある時は実際の野球の試合―。そう、それは野球を始めた頃から今まで無数の競争があり、それに打ち勝ってきたからこそ今の三木が存在するということだ。
しかし、三木は深層心理の中でこうも思っていたのかもしれない。
「それは、紙一重だったのではないか?」
と。
確かに三木は優れた選手だ。しかし三木は、例えばレギュラーになれなかった者、また試合に敗れた者など、今まで「敗者」を何度も何度も見てきた。
そしてその敗者の分だけ、三木には「プレッシャー」がのしかかる。
それは「敗者の分まで頑張らないといけない。」ということか?また「自分ももしかしたら、そんな敗者になってしまうのかもしれない。」ということか?
―三木のそうした思いは、知らず知らずの間に「重圧」となって三木の心に棲みつく。
そして三木の心の半分はこう思う。
「そんな重圧、プレッシャーから、逃れることができたら―。」
―と。
「そんなアンタの負の感情が、アンタに『メッセージ』という形で現れたんだよ。
まあ、メッセージのアンタも、それを乗り越えようとするアンタもどっちも『本当のアンタ』なんだろうねえ。
でも、アンタにとって大事なのはどっちなんだい?
アンタが選ぶ『本当のアンタ』はどっちなんだい?」
そう三木は老婆に訊かれる。
そして三木はそれに自信を持って答える。
「もちろん僕は、プレッシャーに打ち克つ方を選びます。
何があっても、たとえ心の半分が楽をすることを求めても、僕は決して楽な道は選びません!」
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