第6話 六ー一

 「プレイボール!」

試合が始まる。俺は今までダッグアウトと言うものに入ったことがなかったが、ここからだと先発ピッチャーの球の調子やバッターの状態が観客席にいるよりもよく分かる。そうそれは今まで未経験だった世界。まさしく「不思議な世界」と言えるのではないか。

 また、応援する側の時には気づかなかったが、ここからだとベンチ外部員やブラスバンド部、チアリーディング部などの応援がはっきりと伝わってくる。

 『そう、俺たちは彼らのためにも、勝たないといけない―。』

 俺が今までいた所からのパワーで、俺はそう再認識させられた。

 

 試合はお互いの先発ピッチャーの調子が良く、0―0のまま推移する。もちろんお互いにチャンスは作るのだが、あと1本が出ない。

また圧巻だったのは、5回表に俺たちはノーアウト満塁のピンチを迎えたのだが、そこから俺たちのピッチャーのギアが入り、三者連続三振でそのピンチを無失点で切り抜けたことだ。

 その後お互いに2点ずつを加え、2―2で試合は9回を迎える。

 

 9回表。俺たちの先発ピッチャーは尚も投げ続けている。しかし―、その回の先頭バッターに、ソロホームランを打たれてしまう。

 ―あれは、疲れから来る失投なのか?その打たれたボールは明らかに力がなかった。

 また監督曰く、

「あいつはランナーがいる時、ピンチの時はギアが入ってなかなか打たれづらいが、何でもない時にホームランを浴びることがある。」

とのことだ。いわゆる「一発病」というやつか。

 とにかくこの時点で2―3。俺たちは1点ビハインドになった。

 あとのバッターは危なげなく抑え、俺たちは9回ウラを迎える。

 

 そして9回ウラ。先頭バッターがフォアボールで出塁し、次のバッターがセオリー通りに送りバントで1アウト2塁。そして次のバッターもアウトにはなったがランナーは3塁に進塁し2アウト3塁。ここでヒットが出れば同点だが、アウトになれば試合終了という局面になった。

 そしてここで監督が大胆な采配を見せる。

「次、代打佐山でお願いします。」

監督は審判にそう告げる。

 『お、俺―!?』

一瞬俺はフリーズした。

 「佐山、私は今までお前の練習に打ち込む姿を見てきた。それで今日、この場面を任せられる、私はそう思っている。

 緊張せず、普段通りでいいからな。行ってこい佐山!」

「はい、分かりました監督!」

そう言って俺は打席へと向かう。

 そのわずかな間、俺がベンチからバッターボックスへと向かう間、緊張のせいか俺はいろんなことを考えてしまった。

 『俺、本当に大丈夫なのか―?

 ここで失敗したら、ゲームセットだぞ!

 ―ってかここで試合が終わったら、俺の魂も悪魔に持って行かれるんじゃ―?』

それは今まで止めていたはずの思考だ。しかし俺はプレッシャーのあまりいらぬことを思い出してしまう。

 『ダメだダメだ集中しよう!

 どうせ俺は死ぬ―なら頑張るしかない!』

 俺は何とか気持ちを切り替えようとした。そしてバッターボックスに入る。

 「プレイ!」

審判のコールがかかる。

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